2014年12月22日月曜日

中堅世代-それぞれの建設業・77/女性活躍、可能性を信じて

性別にかかわらず生き生きと働ける職場環境作りが課題
ゼネコンに入って、とにかく大きい建物を造るところを目の前で見てみたい-。大学で建築構造を専攻した井上美紀さん(仮名)。勤めているゼネコンは、10年ほど前の就職活動中、「現場に出たい」という希望を前向きに聞いてくれた唯一の会社だった。これまで複数の現場に配属され、現場監督としての経験を積んできた。
 入社当時、現場で女性の存在は珍しかっただけに、「配属先の所長はすごく気を使ってくれた」と振り返る。ありがたいと思う半面、男性と変わらずに接してほしいという思いもあった。「トイレや更衣室だけ配慮してもらえれば、あとは怒られることも含めて男性と同等でありたい。逆に女性一人のために必要以上に気を遣われ、設備などにお金をかけられると心苦しさが増すばかりだった」。
 周囲から「おまえは所長になれ」ともよく言われた。女性の現場所長の誕生に期待をかけ、エールを送ってくれている…。そうは分かっていても、その一言が肩に重くのしかかったことも。「横道にそれず、現場一筋で生きていく選択肢しかないと自分を追い詰めるようになった」。
 これとは正反対に、現場に女性がいることを快く思わない所長も少なからずいた。会社が男女問わず若手技術者に現場をローテーションで経験させようと取り組んでも、「利益が上がらないから女性は要らない」と有無を言わさず拒絶する所長も。女性や外国人など異質の人材が現場に入ることを、単にコストアップ要因としか見ていないのだと思った。
 「残業ありき、体力ありきで評価されるような凝り固まった価値観や美学が現場に残っている限り、女性技術者の活躍の場は広がらない」と思っている。
 業界内では最近、女性活用の取り組みが盛り上がりを見せているが、違和感を覚えることもある。「活用」という言葉自体、今まで役に立っていなかったものを生かすといった「上から目線」を感じるからだ。
 「業界が女性技術者を必要な人材として再認識し、積極的に採用すること自体は大いに賛成だが、女性活用のキャンペーンを何のためにやっているかが不透明」と今の流れを素直には受け入れていない。「人手不足だが、外国人は扱いづらいのでとりあえず女性を入れる」。そんな目先の対応が先に立ち、「男女が一緒に働くことが現場にとっていいことだ」といった理念が感じられないという。
 言葉に踊らされず、老若男女が働きやすく、作業効率の高い現場の生産システムを構築する。こうした多様な人材を活用する本来の目的をきちんと示すことが必要だと思っている。
 体調を崩し、今は現場を離れて本社の管理部門に勤務する。最近、後輩たちのために何ができるだろうかとよく考えるようになった。建設会社では女性の活躍する場がまだまだ限られ、社内で自分の行き場を見いだせずにいる人も多い。
 「現状に縛られない現場技術者の働き方を見つけたい」。現場を経験した女性技術者の一人として、性別にかかわらず、より多くの技術者が現場の生産に関わり続けられる仕事の仕組みや制度をつくることをこれからの目標に掲げる。閉鎖的な職場環境が長く続いていた建設業界だからこそ、まだまだ可能性があると信じている。

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