2015年2月2日月曜日

中堅世代-それぞれの建設業・80/人は難しい、だから現場は面白い

人が成長できる現場とは…
 いかに気持ちよく働き、最高の仕事をしてもらうか-。建築技術者としてゼネコンに入り、30年近く現場に立ち続ける前沢祐二さん(仮名)は、現場管理について「人対人の関係がすべてを左右する」と考える。
 社内でも特に厳しい現場を任され、長年の経験で身に付いた人心掌握術には自信がある。所長教育という確立されたカリキュラムがない中、これまでの現場で影響を受けた所長のやり方をまねたり、改善したりしながら、自分なりの管理スタイルや信念を築いてきた。
 大学卒業後、現場の最前線をひたすら走り続けて40代後半となった今、「どこかの大学などで心理学を勉強したい」と思うようになった。マネジメントに対する自分の考え方や理論について、専門の学校で深く考察することで、今までとはまた違うものが見えてくるのでは…。
 そうした向上心を持ち続けることが、常に新鮮な気持ちを保ち、仕事を面白いと感じる原動力になっている。
 信頼できる部下はいるが、同じ社員を自分の現場だけに固定化することには反対だ。「いろんな現場を経験しないと頭が偏ってしまい、所長としての自分も成長しない」。だが、会社の経営陣は安定を求め、同じ所長と部下を長く組ませようと考えがちだ。「こうした企業風土を変えないと、本当の意味で人材は育たない」と思う。
 逆に協力業者とは継続的に長く付き合い、互いの信頼関係を深めることが重要だと考えている。前沢さんの現場管理の基本スタイルは「自主性の尊重」。こちらが最低限言うべきことを伝えたら、後は個々の職人たちが自らの知恵を絞って考える。「迷ったときにヒントを与えるぐらいがちょうどいい」。
 人は命令されるのが基本的に嫌だから、まず自ら動いてもらう。やらなければ決め事が増えて締め付けが厳しくなり、結果として働きづらく、作業もやりにくくなる-。それが持論だ。
 だから「職長会」も不要だと思っている。「大現場はともかく、請負金額が20億円か30億円ほどで常駐社員が数人程度の規模の現場なら、意識の高い職長がいれば自然とまとまる。組織的、システマチックになりすぎて人を押さえ付けるような管理になったら、相手もいい気持ちで仕事はできない」。
 現場のことをきちんと総体的に理解できる人材が足りなくなりつつあると感じている。5年後には現場で中心的な役割を果たす20代後半の社員の現状を見ると、不安がよぎる。「最近の現場監督は事務的なマネジメント業務ばかり行い、『技術屋』として修羅場をくぐっていない。そんな職場環境にも問題がある」。
 最近、会社が受注する工事にはマンションが多い。仕様が画一的な現場ばかりでは技術を磨けず、経験知も広がらない。ダイナミックな現場が少なく、細分化された業務分担の中で技術者も小さくまとまってしまうのではないかと心配だ。「やはり少人数の現場でもまれながら全体の流れを把握し、自分が動かないと現場が回らない状況を経験することが大切だ」。
 若い社員は仕事ができないわけではなく、会話もできないわけではない。ただ、より良い対人関係を築く力には欠けるように見える。「次の時代の人たちに古株のわれわれが合わせる必要があるかもしれないが、今の若手は自分の頭で考えなさすぎる」とつい苦言も出る。
 人を理解するのは難しい、だから面白い。そろそろ組織のマネジメントに関わる年になる。限られた現場生活の中で人との出会いをこれからも大切にしたいと考えている。

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