2015年3月23日月曜日

中堅世代-それぞれの建設業・87/地元密着型企業としての誇り

地方の建設業を取り巻く環境は厳しいまま…
  震災被災地の東北や好景気の東京に人手を取られ、昔から地元にいた職人の姿をすっかり見なくなった-。首都圏に近い地方でクレーンのオペレーターとして働く真田俊治さん(仮名)は、ここ数年、現場で会う業者の顔ぶれが一変してしまったことに驚く。
 工事量が急増し、人手不足などから単価が大きく上昇したエリアを新たな活動拠点とする業者が増えたという。処遇など条件面で割のいい仕事を求め、地元を離れて仕事をすること自体を否定はしないが、日ごろから付き合いの深かった仲間がいなくなることに寂しさも感じる。
 真田さんの営む会社は、数台のクレーン車を保有し、現場で揚重作業を担当する。親の代に始めた会社を継いで20年以上がたつ。地元で仲良くなった業者などから優先的に仕事を回してもらえる関係を築いてきた。クレーンのオペレーターは、元請の現場監督に指示された作業だけをやっていればいいわけではない。実際に現場で作業をするとびなどの専門工事業者の要求にも応えなければならない。刻々と変わる現場の状況を踏まえ、周りに合わせる中間管理職的な立場にあり、クレーンの操作技術だけでなく、コミュニケーション能力も求められる。
 経営的には決して楽な状況ではなかったが、これからも仕事を続けていく自信が付き始めた矢先に、東日本大震災が起きた。
 被災直後の混乱期から復興期に入り、建設需要は総体的には膨らんだが、被災地以外の地方が厳しい状況には変わりがない。
 とびや型枠大工、鉄筋工など、仲の良かった職人たちが、仕事があふれるエリアに拠点を移し、地元から姿を消したことで、これまで真田さんの会社に回ってきた仕事も思うように取れなくなった。
 「政権交代後のアベノミクスによる景気浮揚に一時は期待もしたが、地元ではまったく仕事が出ていない状況。大きな工事は被災地や東京を中心とした大都市圏に偏り、地方の中小都市まで恩恵は届いていない」と不満を募らす。
 クレーン車による揚重作業はスポット的に行う短期間・単発の仕事が多いため、地元を離れて仕事を請け負うことは難しいという。
 「大規模な現場で数年単位の仕事をもらえるなら遠隔地でも行く気になるが、単発の仕事では現場への移動時間や燃料費もばかにならない。身一つで動ける職人とはフットワークに大きな差がある」
 優秀な職人ほど、元請けや上位の下請業者などに誘われ、地元から離れた場所で割のいい仕事を請け負っている。
 仕事が少なくなった地元には、いい職人が集まらず、現場での業者間のコミュニケーションも良好とは言い難い。それでも地元に残り続け、新しく知り合った業者との信頼関係を構築しながら頑張ろうと思う。
 これまで人生の大半を過ごした地元への愛着もある。「仕事ほしさに縁もゆかりもないエリアに出るほどの気概はないが、このまちに根付いたクレーン屋としての自負はある」。先行きは決して楽観できないが、地元密着型企業としてのなりわいを続ける覚悟だ。

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