2015年5月17日日曜日

【プロジェクト・アイ】松本市美鈴湖自転車競技場建設(長野県)/施工はNIPPOJV

最大傾斜36度のバンクを専用機で高精度舗装
 自転車でトラックレースを行う自転車競技場・競輪場。特殊な曲面で急勾配のバンクを持つこうした施設の舗装で世界トップレベルの技術とノウハウを有するNIPPOが、長野県松本市で自転車競技場の新設工事を手掛けている。1周333メートル、最大傾斜角度36度の走路を専用の舗装機械で施工する。特に自転車の走行に影響を与える表層の施工では、平滑性や密度の確保に細心の注意を払う。最大の山場となる表層の施工を無事に終え、仕上げの塗装工程に入る。

 ◇世界トップの技術駆使◇

 松本市はかつて、市内に「かりがね自転車競技場」を保有していたが、施設の老朽化と、同市をホームタウンとするサッカークラブ・松本山雅FCの練習拠点を整備するために解体。閉鎖していた浅間温泉国際スケートセンター跡地に新たな自転車競技場の整備を進めている。施工はNIPPO・松本土建JVが担当している。
 NIPPOは、自動車のテストコースやサーキットの設計施工を数多く手掛けており、オートレース場や自転車競技場・競輪場の走路舗装でも高度な技術と豊富な施工実績を持つ。国内では、アスファルト舗装による自転車競技場のすべて、競輪場の約80%の走路を施工してきた。走路の補修・改修工事もコンスタントに手掛けているが、自転車競技場の新設は同社でも久しぶりだ。元請では99年竣工の宮城県自転車競技場(宮城県大和町)以来16年ぶり。下請で施工した三郷町六郷自転車競技場(秋田県三郷町、04年竣工)から数えても11年ぶりとなる。
 建設地は松本市三才山1830。1周500メートルのスケートリンクがあった敷地で、管理棟と山に挟まれた横長の形状。この条件下で1周333・33メートル(3周で1キロ)、幅員7メートルの走路を整備するには、バンクの傾斜角を高くする必要があった。設計速度の秒速15メートルを満たすために最大傾斜角度を36度で設計。国内の自転車競技場では、泉崎国際サイクルスタジアム(福島県泉崎村)の38度に次いで2番目に急勾配なバンクとなった。

数々の現場で培った技術と経験が高精度施工を支える
 スピード競技用の自転車は、硬くて細いゴムのタイヤで、サスペンションがないのが特徴。選手は走路を全身で感じ、微妙な凹凸も敏感に捉える。このため走路には平滑性と密度が高い精度で求められる。NIPPOは今回、走路の構造を下から、▽凍上抑制層(再生砕石、厚さ460ミリ)▽下層路盤(切り込み砕石、200ミリ)▽上層路盤(石灰処理砕石、120ミリ)▽基層(粗粒度アスコン、50ミリ)▽中間層(特殊開粒度アスコン、40ミリ)▽表層(特殊密粒度アスコン、30ミリ)―の6層で設計。中でも基層、中間層、表層のアスコン層の石にこだわった。粒径を10ミリ以下(一般道は13ミリ以下)にし、表面がきめ細かく平滑で、密度の詰まった丈夫な走路に仕上げた。現地の石が鉄分を含む岩質だったため、さびの発生を危惧。選抜した石を持ち込んで長期を見据えた品質確保に努めた。
 同社は長年の技術開発と施工実績を通じ、▽アスファルトスタッカー(合材をフィニッシャーに連続供給する機械)▽アスファルトフィニッシャー▽ロードローラー▽サポーター(フィニッシャーとローラーをつりながら移動する機械)―の4種類で構成する専用の施工機械を保有している。正確な高さ管理を自動制御するシステムの装備、斜め移動に対応したエンジンや油圧の位置・角度、つりながらの作業に備え車体の軽量化など、さまざまな技術を結集した専用機だ。
 高い平滑性を求められる走路の舗装は、一定の速度を保ちながらトラック1周をノンストップで施工するのがポイント。最大20トンのアスファルト合材をためることのできるスタッカーを用いてフィニッシャーに合材を連続供給。フィニッシャーとサポーターのオペレーターが息を合わせ、一定のスピードを保ちながら敷きならす。

舗装工事が完了したバンク
 走路の密度を高める転圧作業では、ローラーとサポーターのオペレーターが綿密に連携して斜めの路盤を均一、着実に締め固めていく。最後のジョイント部(つなぎ目)は、手作業で平滑な面に仕上げる。同社が培ってきた技術力、総合力が生きる場面だ。競技規則では、トラックの周長について1キロ当たりプラス5センチ以内という精度が要求される。技術面を支える吉中保氏(北信越支店技術グループ技術課長)は「10ミリの石や5ミリの砂を使って1ミリ単位の精度を出している」と胸を張る。
 基層と中間層はそれぞれ2日間、表層は3日間をかけて走路を施工。4月23日には、4時間半の連続施工によって表層工程が終了し、走路が一つにつながった。仕上げの塗装(3層)も急斜面の上を人の手によって行われる。現場代理人の井上英樹氏(松本市美鈴湖自転車競技場建設工事事務所)は「精度や品質だけでなく、安全の管理もさらに徹底していく」と気を引き締める。

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