2015年5月18日月曜日

【回転窓】沈没船と安全保障法案

 浅田次郎さんに「シェエラザード」という小説がある。戦争中に多くの人々を乗せたまま撃沈された船を引き揚げ、戦後の平和と繁栄の中で忘れ去られそうな真実に向き合おうとする人々の話だ▼小説のモデルは大型旅客船「阿波丸」。第2次世界大戦中、赤十字の救援物資を運ぶために、連合国側に航海の安全を保証されながら、台湾沖で米国の潜水艦に撃沈された。民間人を含む約2000人が犠牲になり、米国政府は責任を認めたものの、事件の真相は謎に包まれている▼先ごろ、戦艦武蔵とみられる船体がフィリピン沖で見つかった。発見したのは、マイクロソフト社の共同創業者のポール・アレン氏▼無人探査機に搭載したカメラを遠隔操作し、水深約1000メートルの海底に横たわる船の姿をインターネットで中継した。発見の知らせを受け、武蔵の元乗組員と遺族らが現地を訪れ、海底に眠る人々のために洋上慰霊祭を行ったという▼自衛隊の活動拡大を図る安全保障関連法案が閣議決定された。国会審議はこれからだが、現在の平和と繁栄の陰に、犠牲になった多くの人々がいることを忘れてはならない。

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