2015年7月28日火曜日

【駆け出しのころ】鹿島執行役員環境本部長・新川隆夫氏


 ◇個人の能力は掛け算で現れる◇ 

 現場に出て働こうと考えていましたから、入社して配属先が技術研究所と分かった時にはかなり驚きました。技研では周りの人たちの能力が高く、気後れしていました。ですが、技研では大学院に進学したのと同じくらい充実した勉強をさせてもらったと思っています。こうじゃないかという仮説を論理立てて検証することだけでなく、しっかりとした言葉や文章で説明することの大切さも学びました。
 そろそろ現場に出た方がいいかと会社に自己申告していたところ、入社5年目に現場勤務となりました。最初の現場は東京都内の下水処理場です。とにかく現場での仕事を早く覚えなければいけないと焦っていました。
 そうして少したったころ、自分の気持ちに変化がありました。いくら不得意だからと言い訳したとしても、責任が伴うことに変わりはありません。それなら逃げないで自ら前に出ていった方がいいと考えるようになったのです。
 30代前半に東京都内の道路トンネル工事を担当したころのことです。ここの所長は毎朝、事務所に来ると新聞ばかり読んでいるのですが、肝心な時にひと言だけぼそっとアドバイスをくれるのです。新聞を読んでいても、事務所の職員たちがどういう話をしているのかをずっと聞きながら、常に先を読んでいろいろと考えておられたのだと思います。その後も現場で何か困った時は、この方のやり方に戻ればいいという思いがありました。
 私は、個人の能力というのは掛け算だと考えています。標準を1とすると、能力のある人は2、3と高い。でも、標準を少し超えた1・2くらいでも、次の仕事で、さらにその次の仕事でも同じ1・2の力を出して積み重ねていけば、それらの掛け算で気がついたら2を超えられているかもしれない。入社して35年がたち、こういうことではないかと思っています。
 会社生活の中には、自分は一体何をやっているのかと考えてしまうグレーの時期があります。チャンスの回数は皆に平等ではありませんが、少なくても必ず巡って来ます。重要なのは、その時にどんなパフォーマンスができるか。それにはきっと、グレーの時期にも落ち込まずにやるべきことをやっていた経験が生きるのではないでしょうか。そうすれば掛け算の数値になって現れるはずです。
 センターではなく、後列の端にいたとしても、その方が全体をよく見渡せるとも言えます。実はこれが大きなチャンスかもしれない。後ろにいても、意識すれば見られるのです。チャンスは皆にあります。
 (しんかわ・たかお)1979年立命館大理工学部土木工学科卒、鹿島入社。赤坂見附駅工事事務所長、東京土木支店土木工事管理部長、土木管理本部土木工務部工事管理部長などを経て、14年4月から現職。大阪府出身、60歳。

都内のトンネル工事現場に組み立てたガントリークレーンの上で。30代前半だった


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