2015年8月31日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・108

コミュニケーション能力の欠如が若手育成の大きな課題に…

 ◇多様な個性生かし合うには◇

 子どもたちが巨大な橋やダム、超高層ビルなどを見れば、どのように造られたのか知りたいと思い、自然と建設業への興味も湧くはず…。

 建設会社の管理部門で働く山本晃さん(仮名)は、業界団体や企業が長年にわたって情報発信やPR活動を続けているにもかかわらず、若い世代の建設業への関心がなかなか高まらない現状に危機感を募らせる。

 「子どものころ、夏休みに海水浴に行けば、砂浜でトンネルやダム、城などを作り、遊びの中でものづくりを体感していた。今は海の家でゲームに夢中になっている子どもの姿ばかりが目に付く」と嘆く。

 70年前、戦後の焼け野原からスタートした国土開発。焦土と化した街を再建し、国土を発展させるために建設業が果たす役割の大きさは、国民の誰もが自然と理解していた。4年前の東日本大震災の被災者の中には、自らの手で故郷の復興を進めるため、将来は建設関係の仕事に就こうと考える子どもたちもいる。

 「ゼロから街を作り直す立場になって、建設業が社会にとって欠かせない産業であることをより強く実感できる。生まれた時からインフラが整い、近代的なビルが立ち並ぶ街で育った若い世代にとっては、建設産業との接点が少なく、その役割に気付きにくい時代なのかもしれない」

 山本さんの会社を就職活動で訪ねてくる学生を見ていても、大きな構造物を建設したいと意気込み勇んでくる学生はごく一部だ。多くは上場企業というブランド、給与水準の高さ、休みの多さなどが選定基準。安定志向が強く、我慢・辛抱を極力避けたがる。仕事や働き方に関する価値観が変わり、ベテラン層の経験則が通用しなくなりつつあると感じる。

 「嫌になったらゲームのようにリセットボタンを押せばいいという感覚。何か悩みや問題を抱えていても周囲には相談せず、会社を辞めることへの葛藤もなく、辞表を突然出してくる。会話がないから、何を考えているかわからない」

 入社後の社員教育では、技術以上にコミュニケーション能力の向上に力を入れている。「今は会話能力や『ホウレンソウ』(報告・連絡・相談)など社会人としての基礎的能力を最初に教え込まなければならない。所長や主任クラスが親代わりになって、若手のコミュニケーション能力まで一から指導していては、現場はますます疲弊してしまう」。

 昔は組織全体の中で個として生きる能力を重視してきたが、今は組織よりも個を一番に考える風潮が強い。その結果、個性の意味をはき違え、周囲を気にせず、自分の世界に没頭することを個性と捉えている-。山本さんの目には、最近の若者がそうも映る。

 「社会・集団の中で異なるスキルを持つ個を生かし合うことが建設業で求められる個性。建設現場は多種多様な職種ごとの個の集まりで成り立っており、周囲から隔絶したところで個性を唱えても理解されない」

 山本さんは、世代間のギャップに戸惑いつつも、若手の意識改革とコミュニケーション能力の向上に力を尽くそうと奮闘する日々だ。

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