2015年8月6日木曜日

【復興最前線】閖上地区復興土地区整事業(宮城県名取市)/設計・施工は西松建設JV

先行する災害公営住宅エリア。かさ上げが完了し
汚水排水管などの整備が始まっている
 東日本大震災の大津波で甚大な被害を受けた宮城県名取市の閖上(ゆりあげ)地区で、復興に向けた基盤整備工事が本格化している。土地のかさ上げやインフラ整備が進められており、盛り土量で見ると当初想定の約3分の1まで進展してきた。最初の引き渡しも今秋に迫っている。設計・施工を手掛けるのは、西松建設・鴻池組・佐藤工業・グリーン企画建設・パシフィックコンサルタンツ・オオバJV。一日も早い完成が待たれる中で、どのように現場を切り盛りしているのか。西松JVを取材した。

 ◇「できるだけ早く」が使命◇

 進められているのは、「閖上地区被災市街地復興土地区画整理事業設計・施工一括型工事」。昨年8月22日に初弾の契約が締結された。閖上地区の約57ヘクタールが対象で、土地全体をかさ上げして、一般住宅用地や防災集団移転用地、災害公営住宅用地などを整備する。全体の盛り土量は約170万立方メートルを想定しており、今年7月30日時点で約58万立方メートルが完了した。北西端に位置する一戸建て用の災害公営住宅エリア(第1期分)の一部では、かさ上げ作業が既に完了し、汚水排水管の敷設などインフラ整備に入っている。2段階に分けて工事を行っており、先行区画は今年10月末に引き渡され、住宅の建設へと移行していく予定だ。
 集合住宅用の災害公営住宅エリア(第1期分)や防災集団移転促進事業の移転先団地の一部、小中一貫校建設予定地でも盛り土作業が進む。このほかの場所でも、既存インフラの撤去工事などに取り組んでいる。
 西松JVでは、大規模土工事を効率的に進めるため、省力化・自動化といった工夫を凝らしている。盛り土の品質確保の面では、10トンローラーで6回転圧すれば十分な強度が得られることを試験施工により実証した上で、転圧回数を管理する手法を同市に提案し、採用された。その都度、土質試験を行うよりも手間を大幅に軽減できるためだ。
 GPS(全地球測位システム)により重機の位置と転圧回数を計測・記録し、オペレーターが作業中に周囲の転圧回数を確認できるシステムを導入したほか、搬入土の含水比の計測管理も行っている。

 ◇省力化で大規模土工を円滑推進◇

 今回の現場では、すべて購入土を用いており、安定供給とリスク分散を図るため、7カ所から搬入している。1日当たりの搬入土量は約5000~6000立方メートルに上り、ダンプトラックで延べ約1000台という規模だ。伝票管理も大きな手間となるため、マークシートを活用した自動伝票読み取りシステムを導入し、事務処理の簡略化も図っている。
 工事は順調に進ちょくしているものの、現場には苦労も多い。西松JVの永野心治所長は、「作業ができる範囲が限られているため、工程管理が難しい。マネジメント能力が問われる現場だ」との認識を示す。
 閖上地区では、住民が完全に退去している場所がある一方で、自宅を修繕して住み続けている被災者もいる。地下埋設物や学校といった公共施設も残っている。権利調整や合意形成を経て、住宅や既存施設の移転・撤去が進まなければ、作業に着手できない場所が多い。
 広大な敷地を見渡す現場に立つと、人員と資機材を大量投入しさえすれば、それほど時間をかけずに完成できるのではないか、という印象さえ受ける。だが現実には、手を付けることができる場所を、パズルを解くように見つけ出しながら作業を進めているのが実態だ。

震災復興は「相手が見え目的が明確なやり甲斐ある仕事」と話す土岐工事係㊨
 永野所長は、地元の被災者らと接する機会も多い。早期復興を待ちわびる姿を日ごろ目の当たりにしているだけに、「いかに早く街を造るかが課せられた使命」との思いも強い。
 それは現場で働く人全員に共通する。工事係を務める土岐宥美子さん(西松建設)は、「相手が見え、復興という目的もはっきりしている。責任を感じつつ仕事ができることがモチベーションにつながっている」と話す。本年度の新入社員で、初任地として東北に来た。
 今は、先輩たちの指導を受けながら現場管理や測量などに駆けずり回る日々。「できるだけ早く造り上げ、完成した姿を自分も見たい」と決意を交えた笑顔を見せる。

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