2015年9月9日水曜日

【締め切りは来週18日】新国立競技場整備プロポ手続き始まる



 2020年東京五輪のメーン会場となる新国立競技場の設計・施工を一括で担う事業者の選定手続きが始まった。18日には参加表明が締め切られる。一大国家プロジェクトの受注は、企業にとっては大きな名誉となり、海外へのアピール効果も大きい。半面、国民的関心の高い建設費の縮減や工期の短縮などで大きなリスクも負う。各社がどのようなチームを組んで競争に参加し、どのような技術提案を行うのか。目の離せない状況が続きそうだ。

 ◇自由度高いJV編成形態◇

 競技場の建設主体となる日本スポーツ振興センター(JSC)は「新国立競技場整備事業」の設計・施工者を選ぶ公募型プロポーザル方式(WTO対象)の手続き開始を今月1日に公告した。建設費高騰への批判を受けて政府が従来計画を7月末に白紙撤回した後、8月28日に決まった新たな整備計画を踏まえて、事業者選定のスキームが固められた。

 公募要領で大きな特徴の一つといえるのが、単体、JVいずれでも参加を可能にするなど、参加形態の自由度が高い点だ。より多くの企業の参加を促して競争性を高める狙いがある。特にJVについては、設計、施工、工事監理への関わり方や構成員数など編成の自由度を拡大。各構成員が事業全体を共同で実施する「共同実施方式」、各構成員が設計や施工、工事監理の各業務を分担して行う「分担実施方式」、分担した各業務ごとに、単体で実施するかJVで実施するかをを選べる「併用方式」の3タイプから選択可能とし、形態に幅を持たせた。

 中でも併用方式は、さまざまな規模、事業形態の企業がそれぞれの特徴を生かした形で参画できるメリットがあるとみられている。設計、施工、工事監理の各業務ごとにJVの編成が可能となり、個々の企業がより専門的な分野で力を発揮できるからだ。

 7日には、日建設計と英国の建築家ザハ・ハディド氏の事務所(ザハ・ハディド・アーキテクツ=ZHA)が設計チームを編成し、事業提案に参加すると表明した。ハディド氏は、白紙撤回された従来計画では国際コンペで選ばれてデザイン監修を担当。日建設計も基本・実施設計を担当していた。この2年間の知見と経験を有効活用し、より最適な設計業務の遂行を目指すという。共同提案する施工業者は調整中とされるが、日建設計とZHAが組むチームは、事業者選定で大きな台風の目となりそうだ。

 ◇工期短縮と公費縮減が至上命令◇

 新国立競技場の整備では、完成を五輪開催に間に合わせることが至上命令となる。同時に建設費の縮減に対する国民の関心も極めて高い。このため技術提案の審査基準では、「工期短縮」と「事業費縮減」の二つの評価項目にそれぞれ30点と、個別項目では最大の得点が配分された。技術提案では工期の厳守と上限内のコストでの建設が最優先の課題となる。

 公募要領によると、工期については、事業者自らの努力だけでは提案した完成期限を達成できない場合、要求水準の変更も可能としているが、事業協定書には、その場合の違約金規定も盛り込まれる。ある政府関係者は「工期順守が絶対条件。違約金規定は、工期のためなら当初の要求水準を満たさなくてもよいという意味でもある」と解説する。五輪開催に間に合わせるための工期厳守が最重要課題であることは間違いない。

 事業費については、政府の整備計画で示された1550億円という上限の厳守は絶対条件だが、「価格は技術提案時の提示額を上回らなければよい」(政府関係者)とされる。施工契約後の価格変動に対しても「予見しなかったことが生じた場合は、当然設計変更を行い、その場合は契約上限額を上回ることもあり得る」(同)と、ある程度柔軟な対応が見込まれる。

 事業費にも、工期と同様に、要求水準変更と、それに伴う違約金条項は設定されているが、どちらかというと、技術提案段階では評価が難しい施工時の事業費に対する過度な提案を防ぐ意味合いが大きいとみられる。技術提案書の提出は11月16日に期限を迎える。


 ◇UD・日本らしさも評価◇

 下村博文文部科学相は、事業者の選定に当たっては、「工期の短縮と工事費の縮減を重視しながらも、ユニバーサルデザイン(UD)や日本らしさも評価する」と強調している。事業費や工期に大きな注文を付けると同時に、国を代表する競技場であることも考慮し、「質の確保」への配慮も強く求めた形だ。

 公募要領によると、施設計画の提案評価では、▽UD=世界最高のUDを導入した施設▽日本らしさへの配慮=日本の気候・風土、伝統を踏まえた木材利用など▽環境計画=明治神宮外苑の歴史と伝統ある環境や景観への調和など▽構造計画=屋根を含む構造計画▽建築計画=観客席の形状などを含む建築計画-の5項目にそれぞれ10点が配分されている。

 世界から注目を集める五輪という巨大イベントのメーン会場となるだけに、世界を意識した視点(UD)、日本のスポーツのシンボル的な視点(日本らしさ)が欠かせないのはもちろん、大会後にレガシー(遺産)として周辺開発を先導するローカルな視点(周辺環境・景観との調和)への配慮も重要になる。施設計画での差別化も審査に影響を与える要素になりそうだ。


 《新国立競技場の整備計画》

 △建設場所=東京都新宿区霞ケ丘町10の1ほか
 △競技場本体の面積=19万4500m2(うちスタジアム本体16万5200m2、人工地盤下1万0800m2)
 △スタンド屋根の規模=4万5000m2
 △スタンド席数=6万8000席(将来の増設可能分1万2000席)
 △工事費上限=1550億円(技術提案での上限額1528億円)
 △設計・監理費上限=40億円
 △工期=2020年4月末(20年1月末の工期短縮を目標に設定)

 《事業スケジュール》

 △15年9月1日=公募手続き開始
 △15年9月2~18日=参加表明書など受け付け
 △15年10月7日~11月16日=技術提案書受け付け
 △15年12月下旬=優先交渉権者を選定
 △16年1月上旬=事業協定書を締結
 △16年1月下旬=第I期事業(基本・実施設計、施工技術検討)契約を締結
 △第1期事業完了後に見積もり合わせを行い、第II期事業(設計意図伝達、工事施工、工事監理)契約を締結
 △応募者の技術提案書の記載時期に着工
 △20年4月30日(工期短縮の技術提案があった場合は技術提案書に記載された期日)※目標工期は20年1月31日=完成・引き渡し。

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