2015年9月28日月曜日

【駆け出しのころ】竹中工務店執行役員技術本部長・谷口元氏


 ◇自ら課題を見つけることに期待◇

 竹中工務店に入社したのは、大学の博士課程で研究した数値解析手法の一種である有限要素法を、建築構造物の解析に応用して安全性や合理化の追求に役立てたいと考えたからです。

 有限要素法の歴史をたどると、1960~70年代は確立期、80~90年代が発展期、そして2000年以降は成熟期と言えます。私が米国に留学していた80年代初めは発展期に当たり、いろいろな産業分野に応用しようと研究が行われていたころでした。

 入社して最初の1年間は神戸の寮に他の新入社員と共に入り、会社では研修として設計部、技術部、作業所を回りました。設計部では大学での研究成果を適用できると意気込んでいたのですが、結局は何もできませんでした。

 技術研究所を志望していた自分が現場で施工管理を行うとは思っていなかったため、作業所での数カ月間はとても印象に残っています。それはホテルの建築工事で、私はおそらく扱いづらい新人だったのではないかと思います。現場はそれまでとは全く異なる世界であり、戸惑いもありましたが、貴重な経験をさせていただきました。

 2年目から技術研究所に所属となります。研究員時代には、主にRC構造物の有限要素法による解析や原子力発電所建屋の地震応答解析、鉄骨構造物の数値解析などの研究を行いました。そういった意味では、会社に入って10年目ごろまでに自分で目指していた方向性はおおむね実現できた気がします。しかし、研究的な検討とは異なり、実務の設計業務支援では短期間に成果を求められます。プロジェクトによっては納期に十分なアウトプットを出せず、設計者に迷惑を掛けてしまったこともありました。

 解析プログラムを使う場合、以前はその中身がどうなっているのかを詳細に把握していました。使い方を少し間違えると異なった結果が出てくるもので、中身を把握することでそうしたプログラムの性質を知ることもできました。今はハードウエアの進歩などにより便利に使えるようになった一方で、エンジニアにとってはブラックボックスのようになっているのではないかと少し不安を感じています。

 与えられた課題を解決するのが得意な人は多いのですが、自分で課題を見付けたり、指摘したりするのは非常に難しいことです。私たちが考えていることでも、若い人たちの発想では違うかもしれません。当たり前の課題ではなく、こちらが「おっ」と驚くような課題を出してもらえるのはうれしいものです。これからもそんな指摘や提案を期待しています。

 (たにぐち・はじめ)1979年東大大学院修士課程建築学科修了、83年米アクロン大で博士号(建設工学)取得。84年竹中工務店に入社し、技術研究所主任研究員、環境ビジネスプロデュース本部長、執行役員技術本部長兼技術研究所長などを経て、15年3月から現職。大阪府出身、60歳。

建築現場での一枚。
大学での研究を構造物の解析に生かしたいと入社した

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