2015年12月4日金曜日

【好機を逃すな】国交省・木村実氏に聞く「担い手確保の方策は」

 改正公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)など「担い手3法」が4月1日に全面施行され、建設業界の担い手確保の動きが加速している。建設技能者の処遇改善に向け、社会保険未加入対策や建設技能労働者経験蓄積システム(就労履歴管理システム)の整備、女性の活用策などが急ピッチで進められている。担い手確保に向けた各種の施策について、国土交通省土地・建設産業局の木村実建設市場整備課長に聞いた。

 --最近の労務費や資材費の値動きは

 「公共工事設計労務単価は10月調査の内容を審査中の段階だ。13年度から3度にわたって上げてきたが、ピーク時に比べるとまだ87%の水準にある。担い手確保に向けて今後、製造業などと対峙たいじすることを考えると、現状はまだ十分とは言えない。単価の上昇分が技能労働者に確実に支払われるよう、しっかりと動きを見ていきたい。単価の上昇という流れが止まらないよう、官民挙げて取り組んでいく必要がある」

 「資材費は大別すると、型枠用合板など為替変動の影響を受ける資材と、生コンなど国内の需給バランスに影響を受ける資材の二つがある。今のところ両者とも値動きは落ち着いている。大きく変動する要因も見当たらない。今後の需給動向を注意深く把握していきたい」

 --社会保険未加入対策の進ちょく状況は

 「社会保険未加入対策は業界のご努力もあり、かなり浸透してきた。昨年度の調査によると、対策を始めた12年度と比べ、加入率は企業で1割、労働者でも同じく1割程度上がっている。これをさらに上げる努力が必要だ。直轄工事への参加を社会保険加入企業に限定した取り組みなどもあって、1次下請企業まではかなり加入が進んでいると見ているが、2次、3次の下請企業へどう浸透させていくかが今後の課題で、まだ道半ばという認識だ。今後、法定福利費を内訳明示する標準見積書の普及がカギになる」

 「12月に社会保険未加入対策推進協議会を開く予定だ。その場で進ちょく状況を共有し、今後の加入促進に向けた取り組みも確認したい。担い手の確保には技能労働者の処遇改善が必要不可欠であり、社会保険加入は賃金と並びそのベースとなるものだ。同時に社会保険に加入した業者が不利にならないよう、フェアな競争環境を整えるという視点も重要だ」

 --女性の活躍に向けては

 「女性技術者・技能者を5年で倍増させるという目標を打ち出している。現在、官民挙げて、女性が活躍するモデル現場、女性応援ポータルサイト、なでしこ工事チームの立ち上げなど、各種の取り組みが進んでいる。建設業でも、当然ながら女性は貴重な担い手であり、戦力でもある。女性が働きやすい職場は、男性にとっても働きやすい職場であり、女性の視点で快適な職場環境を整えていくことが、担い手の確保や処遇の改善にもつながっていく。幸い各企業のトップからは、来年度の新規採用で女性社員を多く採用したという話をよく聞く。企業側の意識や取り組みはかなり進んでいると感じている」

 --今年4月に外国人建設就労者受け入れ事業がスタートした

 「11月末時点で、外国人就労者を受け入れる企業を指導・監督する『適正監理団体』の認定が92団体、各受け入れ企業が申請した『適正監理計画』の認定が124件、この計画に基づいて来日した外国人就労者が140人という状況だ。認定済みの適正監理計画では、年度内に約560人が入国予定で、これから年度後半に向けて大きく増えていく。現在、足元の労働者の需給は緩和傾向にあり、人手不足という話は聞こえてこないが、業界団体からは、2020年東京五輪に向け来年度から工事量が増えていくと聞いている。引き続き優秀な外国人材に活躍いただけるよう、適正な受け入れに取り組んでいく」

 --建設技能労働者経験蓄積システムの動きは

 「システムの構築に向け、8月に官民コンソーシアムを立ち上げ、その下部組織である作業グループで具体的な検討を進めている。登録する本人情報の範囲、現場情報、就業情報をどのように登録していくのか、開示情報と非開示情報の線引き、既存システムとの連携など、システムを構築するための基本仕様の詳細を詰めている。最も重要なテーマとして、データの真正性の確保という課題もある。早急に大枠の方向性について各業界の意見を集約し、年度内には官民コンソーシアムも開催したい。並行して業界全体の理解の促進、意識の共有を進めるため、国交省としてさらに汗をかく必要もある。整備スケジュールも念頭に置きながら作業を加速させたい」

 --専門工事業は今後どうあるべきか

 「日本の建設技能者の方々は世界でも一流の腕とマインドを持っている。今後、その技能をどう継承していくのかも大きな課題だ。若者の入職と同時に、技術・技能を教える人の育成も重要となる。現場の第一線をリタイアされた方に、若手教育という形で引き続き業界に貢献していただくことも考えていく必要がある。中長期的に見れば生産年齢人口が減少していくことは確実であり、産業間の人材獲得競争は激化するだろう。若手技能者の処遇改善はもちろんのこと、定着に向けた教育制度の充実も進めていきたい」

 「現在、専門工事業界に関連する大きな取り組みが同時並行で進んでおり、一つの転換期を迎えている。現場は大変だと思うが、今のこの時期を逃すと、建設業界全体が新たな局面に移行するタイミングを逸してしまう。幸い、業界の方々も同じ意識を共有いただいているのではないかと思う。この時期を逃がさず、建設業界の新たなステージに向け一緒に取り組んでいきたい」。

 (土地・建設産業局建設市場整備課長、きむら・みのる)

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