2015年12月25日金曜日

【建設業の海外展開は】海外交通・都市開発事業支援機構・波多野琢磨社長に聞く

 国際競争力の強化と世界経済の取り組みを政策の柱の一つに展開しているわが国の成長戦略。「質の高いインフラ輸出」をキーワードに、官民挙げた取り組みが行われている。アジア・太平洋地域に自由で公正な一大経済圏構築を目指すTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉が大筋合意し、本邦企業には新たな事業機会の創出の可能性も広がる。インフラ整備を担うわが国の設計事務所、建設コンサルタント、建設会社の取り組みをどう見るのか、海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)の波多野琢磨社長に聞いた。

 ―― 建設業の海外展開の現状と、将来展望についてどう考えていますか。

 「鉄道、空港、港湾、道路といったインフラプロジェクトのコストの半分以上は土木工事が占めており、専用軌道を敷設する新幹線となるとコストの7割が土木工事です。それを担う日本の建設会社や関連の企業が海外でのプロジェクトに携わろうということは大変意味のあることだと思います。少子高齢化や社会の成熟など、将来の日本の傾向を考慮すれば、建設需要は今後、海外特にアジアの方が旺盛にあります。各社の経営戦略はそれぞれかもしれませんが、海外への進出は避けられません。当社はプロジェクトベースで、そうした取り組みを支援していきます」

 「建設業の仕事は範囲が大変広いというのが特徴です。海外においては、自らが出資して事業主体となって建設事業までを担うというケースはまだ少ないと思いますが、徐々にそうした事業展開も増えていく可能性があります。保有している建設技術や施工経験を、事業主体の一部やオーナーサイドに立って、プロジェクトに役立ててもらうことを期待しています。民間企業というは、競争して勝たなければなりませんので、事業者側に立つという取り組みが今後カギになると思います。その際、日本の建設業の経験というのは国内の公共事業が中心というのがネックです。公共事業は政府が企画した事業を施工するわけですから、海外のプロジェクト案件では通用しません。現地企業とのネットワークが重要であり、どんな企業と手を組むとプロジェクトがスムーズに進むかどうかは経験に左右されます。パートナー選びは海外事業を展開する上で最も重要な要素ですので、国内が忙しいからといって海外での事業展開を控えるのではなく、積極的に進出すべきだと思います」

 ―― 海外事業はリスクの高さが課題です。

 「インフラは造り続けていないと、技術が廃れてしまいます。日本企業の仕事は品質に優れている上に、工期も必ず守るので、造れば確実に評価されます。その積み重ねの経験が、その次の受注に結びつくと思います。合わせて、海外事業に限りませんが、リスクはつきものですので、事前に十分な情報を把握し体制を整えておくことが必要です」

 「我々は、なるべく日本の企業に活躍してほしいと思っています。ただ、建設業というのはローカル産業なので、日本企業の海外進出先の現地企業と組むことが成功のカギです。日本の企業には、施工管理のような高度な技術が必要な分野に力を発揮していただきたいと思いますし、日本の企業が携われるように、我々は出資していきます。もちろん、現地政府がかかわるプロジェクトもあるので、そうした場合は現地企業とJVを組む必要があります」

 「入札は価格と品質での勝負です。インフラは30~40年と使うわけですが、その間のメンテナンスコストも考慮しなければなりませんし、使われないものを造るプロジェクトに出資するわけにはいきません。投資ですから、回収しなければならないからです。ただし、環境と安全面のスペックに関して、妥協はできません。国際入札で日本の建設業の勝率が悪いのは、他国の企業と比べて海外での経験が少ないからでしょう。土木の技術は素晴らしいものがあるのですから、提案型で受注していくと成功すると思います。土木分野において提案だけする会社はたくさんありますが、その後の施工、施工管理までできるのは日本企業に優位性があります。インフラプロジェクトというものはある意味、陣取り合戦ですので、各国とも国を挙げてセールスを展開しています。日本もそうした動きを学ぶべきです」
 

 ―― 安倍政権は、成長戦略の一つとしてインフラ輸出に力を入れています。

 「これまで他国に遅れていた海外展開の公的支援が、安倍政権になり大きく変わりました。官邸主導で早い段階でファイナンスを決めるなど、相手国からも高く評価されています。政府が決めたあとは、民間には素早く動くことが求められます。企業が出るかどうかがポイントになるということです。インフラは、その国の発展のベースとなる社会資本です。経済発展という面だけでなく、港や空港、道路などを見ても安全保障の面で大変重要な社会資本といえます。我々も案件さえあれば出資していきます。民間が反応してくれるかどうかですので、民間が入りやすいような事業環境を整えるのも大事だと思います。ビジネスチャンスととらえて、人材を育成してほしいと思います。海外はローカルなリスクがありますので、ローカル企業のパートナーは重要です。場合によってはローカル企業をM&A(買収)するケースも出てくると思います」

 ―― JOINの今後の活動方針をお願いします。

 「規模の大きなものをできるだけ早い段階から出資したいと思います。日本の民間企業が入りやすいように計画づくりから関与しようと思います。フィリピンのクラーク空軍基地跡地とその周辺を含めた開発の調査に協力することになります。日本企業のこれまでの経験が評価された結果だと思います。都市開発の一つの実験として、取り組みたいと思います。基本計画は示されていて、都市開発や鉄道計画などが含まれています。ここでの成功が、他国での参考事例になると思いますので、しっかりとしたものを示します。JOINに頼んで良かったといわれるよう努力します」

 「人材の育成が大事ですので、JICA(国際協力機構)などと協力して取り組みたいと思います。まだ、当社の事業は始まったばかりですが、出資はスタートで、リターンがあって成功です。5年先にそういうのが出てくれば大成功です。まずは人材の育成からです。また、投資をする上ではどういったニーズがあるのかを把握する必要がありますので、建設業界の方々とも意見交換をさせていただきたいと思っています」。

 (はたの・たくま、69年東大卒、日本輸出入銀行入行。国際協力銀行外事審議役アジア・大洋州地域担当、在アラブ首長国連邦特命全権大使、東洋エンジニアリング取締役副社長などを歴任し、2014年10月から現職。70歳)

0 コメント :

コメントを投稿