2015年12月14日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・120

用地取得ができなければ、インフラ整備は進まない
◇信頼の輪で事業を前進させる◇

 事業者としての立場を前面には出さず、地権者に「味方」と思ってもらわなければ、用地の取得交渉はスムーズに進まない-。

 道路を整備・管理する組織で事務職として働く40代の森田浩一さん(仮名)。20代後半から30代前半にかけて道路整備に不可欠な用地取得に奔走したころを、今でもふと思い出す。

 計画道路の沿線住民ら地権者との交渉は長丁場になるため、体力的にも精神的にもタフさが求められる。それ以上に、相手との信頼関係を構築できるかどうかが交渉の成否を握る。

 「当時交渉相手になった人たちの顔は今でもはっきりと思い浮かぶ。組織の幹部と地権者の間を何度も行き来しながら、条件面で折り合いをつけるのに四苦八苦した。最後は組織ではなく、交渉の場にいる人間同士の信頼が妥結につながる」

 上司に連れられて用地交渉の場に初めて立ち会った相手は、町内会のまとめ役の初老の男性だった。無理難題を吹っ掛けられ、厳しい言葉を浴びせられるのではないかと警戒していたが、実際に会ってみると、「優しい口調で町内の地権者たちの意見をとつとつと述べる姿を見て正直、拍子抜けしたデビュー戦だった」と振り返る。

 多くの住民は道路の必要性を理解してくれたが、用地の価格や移転条件の交渉に入ると雰囲気は一変。「さまざまな事情を抱える人たちの意見・要望に真剣に耳を傾ける。事業者という立場を越えて相手との信頼関係を築くことの大切さを学んだ」

 相手の立場を理解することは重要だが、相手の言いなりでは事業は前に進まない。用地の費用がかさめば、工事の財源にしわ寄せが行く。互いにできるできないの一点張りで言い合ってもらちが明かない。相手に不信感を抱かせて交渉がいったんこじれると、関係を修復するのが難しくなる。

 時には事業者側の本音もちらつかせながら、落としどころを探ることも必要。ドライではなく、ウエットな交渉術が局面打開には欠かせない。

 「土地収用など強制的な手段もあるが、せっかく世のためになる道路を整備しようというのだから、関係者全員が納得した形で事業を進めたい」

 反社会勢力の介入も珍しくない用地交渉の過程で、地域の人たちと築いた信頼の輪に助けられたことも少なくない。家族を車に乗せて完成直後の道路を走った時には、それまでの苦労と、協力してくれた地域の人たちの姿を思い出して目頭が熱くなった。

 組織の中で現役として働ける時間も半分が過ぎた。中堅世代は今後何をするべきか。森田さんは、先人が築き守ってきたインフラを次の世代にきちんと受け継いでいくためにも、インフラ関連産業の大切さと素晴らしさをもっと多くの人たちに深く知ってもらうことが必要だと強く感じている。そのための情報発信が何かできないかと思案している。「一度きりの人生。自分が納得できる成果を残りの会社人生をかけて残したい」。抱く思いはウエットだ。

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