2016年1月15日金曜日

【観光振興の切り札は?】寺島実郎氏に聞く

 統合型リゾート(IR)をめぐる調査研究を率先して行ってきている日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)。その日本創生委員会委員長を務める寺島実郎氏(日本総合研究所理事長)は、IRによって観光の付加価値がさらに高まると持論を展開した上で、「脱・工業生産力のモデルとして観光は重要。人口減少で衰亡しない知恵にもなる」と強調する。

◇人口減で衰亡しない知恵は観光◇

 --観光産業の位置付けをどう見ている。

 「日本は、ものづくり国家として、工業生産力をベースに国を豊かにしてきた。戦後の日本は、初の東京五輪から2年後の1966年から81年にかけて、鉄鋼、自動車、エレクトロニクスといった産業を育てた。外貨も獲得した結果、1人当たりの名目国内総生産(GDP)を10倍に増やし、国を豊かにした。しかしグローバル競争が激しさを増した90年代に入ると、ものづくりだけでは、国をこれ以上豊かにできない構図が見えてきた」

 「2000~14年には、製造業で218万人、建設業で129万人の雇用者が減り、広義のサービス業が366万人増えた。表面的な失業率は下がったが、サービス産業雇用者の年間平均報酬は建設業より178万円低く、272万円にとどまる。結婚し、子どもを育てるには十分とは言えないのが現実だ。政府の提唱する観光立国は、サービス産業を高付加価値化することでもあると認識している。宇宙・航空、ロボットのようにものづくり産業の付加価値をさらに高める努力は欠かせないが、サービス産業の高付加価値化も同時に必要だ。十分な収入を得られるサービス産業のリーディングヒッターとなるのは、観光だと考えている」

 --観光産業を活性化する方策は。

 「物見遊山の旅行者に満足してもらうのも大切だが、観光については、もっと深く考えなければならない。経済団体や学識者で構成するIR推進協議会の共同代表を務めており、ここでもIRのあるべき姿を提案している。IRはカジノという偏った見方がされている面があるが、必要なのは、本当の意味の『インテグレーテッド・リゾート』。カジノもコンテンツの一つだが、求められるのは国際会議、展示、宿泊、商業、アミューズメント、スポーツなど複合的な機能を兼ね備えた付加価値の高い施設だ。カジノを地域振興の起爆剤と考える地域が増えているが、それだけでは限界がある」

 「居住地と異なる地域で医療を受ける医療ツーリズムのニーズが高まっている。このほかにも興味深い試みとして、徳川家康の外交顧問となった英国人・三浦按針にゆかりのある地域が魅力を発信する『ANJINプロジェクト』が年1回、ゆかりのある市でサミットを開いている。外国の生誕地とも連携するような歴史ツーリズムがあれば、観光の魅力はさらに高まる。先端的な産業に対する見学者を引き付けるインダストリーツーリズムもあってよいだろう。瞬間的ににぎわうイベントとは違ったアイデアを出す地域からの仕掛けも大切だ」

 --担い手はどうあるべきか。

 「人々を元気におもてなししたり、気分を高揚させたりする人材を養成する『ホスピタリティーマネジメント』の充実も求められている。世界的なホテルのフロアマネジャーは、米国のコーネル大学でホテル学を学んだことを誇りにしている。観光産業で胸を張って働こうとする人が、ホスピタリティーマネジメントの教育を受けられるシステム設計が重要だ。当然ながら、観光を骨太の産業にするには、従事する人が十分な報酬を堂々と得られる環境を整えなければならない」

 ◇インフラとリンク、総合交通体系描け◇

 --訪日外国人旅行者(インバウンド)の購買力に期待する声が高まっている。

 「14年のインバウンドは1341万人に達した。15年は円安の影響で、1900万人台後半になった可能性もある。政府も観光庁を設置し、観光政策に一段と力を入れている。インバウンドに着目するのは当然なのだろうが、例えば2泊3日数万円の観光客や、いわゆる『爆買い』への過度な期待だけでは、観光産業の底上げは図れない。スイスやフランスが成功しているように、富裕層も引き付ける施策を充実させる展開を期待したい。私見だが、中国経済や中国人旅行者の爆買いに期待する一方で、中国の拡大路線に危機感を覚える複雑な感情を抱いたままでは、日本はアジアのリーダーとしての役割を果たせない」

 --人口減少が進む地域にとって観光が担える役割とは。

 「阿部守一長野県知事と対談し、首都圏出身の住民が長野でリンゴ栽培に精を出している話題で盛り上がった。人口の1億人割れが懸念される中では、『移動と交流』が経済を支えていく。人口減少で地域を衰亡させない知恵として、国内の移動と交流を促すと同時に、外国との移動と交流も進め、活力を高めることが求められる。例えば、リニア中央新幹線が完成すれば、東京と名古屋が40分で結ばれ、1時間必要な神奈川県相模原市と東京都心の移動は10分に縮まる。相模原地域は、ライフスタイルの変更を迫られるだろうが、それは今後の日本の有り様を示すことでもある」

 「広域経済圏を短時間で接続し、移動と交流を促すメガリージョンは、観光の本質につながっている。首都圏中央連絡自動車の整備が進むにつれて、首都圏の道路網はクモの巣のようなネットワーク型に充実する。千葉・成田から東京・羽田、神奈川・横浜のアクセスは飛躍的に向上している。太平洋側と日本海側との連続性がさらに高まれば、人流と物流が促され、アジアのダイナミズムと向き合える。インフラ整備と観光立国の政策をリンクさせ、空港・港湾と、それらをつなぐ鉄道、道路の交通体系を総合的に描き切ることの重要性が増している」。

 (日本プロジェクト産業協議会日本創生委員長)

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