2016年2月8日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・125

人材不足で即戦力の技術者は引く手あまた…
◇自分の思いにうそはつけなかった◇

 土木技術者としてトンネルを掘り抜いた時の感動を一度は味わってみたい-。

 地方自治体の土木部門で現場管理に長年携わってきた藤山建太さん(仮名)。共同溝の整備などでシールドトンネルの現場を複数経験してきたが、立坑に到達する前に毎回、違う現場や部署に回されてきた。最近はトンネルの新設工事を発注することもなく、貫通の場面に立ち会う夢もあきらめかけていた。

 2011年に東日本大震災が起きた後、国内の建設市場はそれまでの縮小傾向から一転。被災地の復興事業だけでなく、防災・減災や国土強靱きょうじん化に向けた関連プロジェクトが相次いで具体化してきた。国の経済政策に2020年東京五輪の開催決定なども加わって景気も上向き基調となり、民間の設備投資も堅調に推移している。

 こうした環境変化に藤山さんは、「このタイミングを逃したら、トンネルを掘る機会はもう巡ってこない」と考え、長年勤めた役所を辞めて建設会社に転職することを決意した。

 発注者・管理者の立場で数十年にわたり建設産業に関わってきた。それだけに建設会社には知り合いも多く、転職の話が出回るとあちこちから声を掛けられた。

 人材不足の折、経験豊富な技術者へのニーズが高い上に、発注者側の事情にも明るい藤山さんの再就職活動が引く手あまたなのは当然。決め手は「最初に声を掛けてくれ、知り合いも一番多かったから。給料などの条件面よりも、トンネルを掘り抜きたいという自分の思いに共感してくれる企業が絶対条件だった」という。

 安定した役所勤めからの転身には、家族の理解も不可欠。長年連れ添った妻に意を決して転職することを伝えると、「最後まで楽しく仕事ができるなら頑張ってくればいいじゃない」と一言。妻の優しさが背中を押してくれた。

 役所勤めの人間が地元に住む家族と離れて暮らすことは、出向などで他の機関に職場が移った時ぐらい。出先で一定期間がたてば元の職場に戻る。一方、全国展開する建設会社で現場勤務を希望すれば、単身赴任は当たり前。そもそも地元に残ってもやりたい現場がなく、外に飛び出すための転職で自宅通勤はあり得ない。

 「『終(つい)の棲家(すみか)』ならぬ、終の職場として骨を埋める覚悟。家族と離れるのが寂しくないと言えばうそになるけど、それ以上に自分の思いにうそをつけなかった」

 役所時代に土木技術者として数十年のキャリアを積み、今、建設会社の新入社員として新たな一歩を踏み出した。

 新しい職場では、勝手知ったる土木屋たちが顔をそろえる。これからの会社人生には不安よりも楽しみ、期待が膨らむ。単身赴任でかりそめの独身貴族にもなった。上司や先輩、同僚らとのコミュニケーションは酒の席で深めようと思う。現場への熱い思いを肴さかなに、今夜もどこかで親睦を深める宴が開かれる。

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