2016年2月10日水曜日

【未来につなぐ匠の技】清水建設が取り組む伝統建築

 初代清水喜助が1804年に江戸・神田鍛冶町で創業し、210年を超える歴史を持つ清水建設。日光東照宮や江戸城西の丸再建工事などを手がけ、寛永寺、浅草寺の御用達大工として腕をふるった喜助の「技」と「こころ」を受け継ぎ、現代建築とあわせ伝統建築の世界でもシミズ・ブランドの価値を高め続けている。東京支店社寺建築・住宅部の金高正典部長と金久保仁副部長に、伝統建築分野での同社の強みや人づくりなどについて聞いた。 
伝統建築の専門部署設置を
「技とこころを継承していくという、強い意志の表れ」と金高部長

 ― 伝統建築への取り組み姿勢は。


 金 高 宮大工の棟りょうだった当社の祖の清水喜助にかんがみ、社寺建築や伝統建築の仕事を継続し、その「技」と「こころ」を伝承していくことを理念に社寺建築・住宅部が設置されています。歴代社長も年頭のあいさつや創立記念日などのメッセージで、伝統建築の技術を継承していく姿勢を明確に打ち出しており、大手建設会社の中で伝統建築専門の部署を置いているのが当社だけというのも、そうした強い意志の表れです。設計部門にも伝統建築の専門チームがあり、設計・施工ならより組織力を発揮することができます。

 ― 伝統建築の市場動向は。


 金 高 1996年に登録文化財制度が新設されて以降、年々文化財の登録数が増え、その保存・修復の需要が伸びています。戦後に建設された一般の社寺建築も多くが更新期を迎えており、改修工事の引き合いが相次いでいます。
金久保 木造技術の進展や木造建築に関連する法的規制の緩和を受け、伝統建築の良さが再評価され、木の需要も回復してきました。

 ― 宮大工起源の建設会社はほかにもありますが、清水建設の強みは。


 金 高 他社に先駆けて限界耐力設計法や耐震板壁を伝統建築に適用するなど、多くの優位技術の蓄積があることです。

 金 久 保 1988年に再建された大石寺六壷では、実際に実験で得られた板壁や水平構面などの性能値を限界耐力設計法に反映させ、純木造建築でありながら4本の柱しかない170畳の大空間を実現しています。

 金 高 大石寺は、いまでも勉強会で現代技術と伝統技術を融合した礎として必ず取り上げています。一方、2004年に落成した靖国神社参集殿は、現行法規に適合した大空間とするため構造体はS造ですが、伝統建築の設計技法として昔から引き継がれている木割を踏襲することで、純木造建築と変わらない意匠となっています。

 金 久 保 伝統建築といっても木造だけでなくS造、RC造、SRC造といった現代建築の知識や経験が必要で、お客さまの要求に合わせて全くの在来木造工法か、鉄骨の軸組と融合した工法かなどを選択します。日本橋に竣工した福徳神社のS造の架構体ですが、ヒノキを伝統的な宮大工技術で組み上げています。

 ― これまで、どのような伝統建築プロジェクトに携わってきましたか。


 金 高 7年前に当部署に配属されて最初に任されたのが、浅草寺本堂の屋根の葺(ふ)き替え工事でした。1958年に建設されたSRC造の建築で、屋根は粘土焼成本瓦の土葺きでした。落慶50周年の記念事業として行われた本工事では、チタン瓦への変更により地震時に屋根瓦がずれ落ちる危険性を解消するとともに、屋根重量が大幅に軽量化されたことで建物自体の耐震性能を高めました。引き続き担当した明治神宮外拝殿の改修工事では、限界耐力設計を適用した在来工法による耐震補強を行いました。

 金 久 保 1980年代の終わりころから10年ほど重要文化財の法華経寺本堂の保存修理に従事しました。部材も文化財ですから、一つ一つ丁寧に手でほどくように解体して劣化した個所を補強し、元通りに組み直す仕事でした。設計図がないため、建設当時(1260年)の大工がどのように考えていたのか想像し、原寸図を描きながらの大変な作業でしたが、非常に勉強になりました。直近では、2013年5月の本殿遷座祭に合わせて60年ぶりに実施された出雲大社の保存修理事業に携わりました。国宝の本殿や重要文化財の楼門などの〝御修造〟に、創業以来培ってきた匠の技を活用しました。総合建設会社が本殿を修復するのは初めてで、国民の注目度も高く日々緊張感を持って作業に臨みました。現在も3期工事が継続中です。

「宮大工の将来は決して悲観的ではない」と金久保副部長

 ― 技術をどう継承していきますか。


 金 高 定期的に勉強会や現場見学会などを開き、知識の習得に努めています。そして何よりも、実務で経験を積ませることが重要です。社寺建築・住宅部は東京支店の組織ですが、各支店と人材の融通を進めながら伝統建築に精通した技術者の育成を進めています。

 ― 少子化の影響による後継者不足の問題はないですか。


 金 久 保 木の需要が低迷した際、大工が少なくなった時期があり、ある年齢層は空洞化していますが、最近は木造が見直されて大工の世界に若い人材が増えてきています。宮大工の将来は決して悲観的ではありません。

  一般建築では得られない伝統建築のおもしろさは。


 金 久 保 伝統建築を長年扱っていると、本当はこうしたかっただろうけど、きっと時間がなかったんだろうなど、昔の大工と会話ができるようになります。改修依頼があって見に行くと、建物が修理されたがっているという思いが伝わってきます。

 金 高 201410月に完了した正倉院の屋根の葺き替え工事で、創建当初の天平の甍(いらか)や過去の修復で使われた鎌倉、室町、江戸の瓦が取り外されて並べられているのを見た時、それぞれの瓦が語りかけてくるのがはっきりとわかりました。当時の職人や材料と語らえるのも、現代建築にはない醍醐味(だいごみ)です。

 ― 伝統建築分野のブランド力をさらに高めるには。


 金 高 出入り大工の精神を失わず、既存の建物であろうと新しい建物であろうと、お客さまの見張り役として最適なストックマネジメントを提供していくことが重要だと考えます。


 金 久 保 私たちが手がけた建造物が、将来文化財になるかもしれません。後世に誇れる仕事を残し、数百年後の修繕事業に役立つ図面や技術を次世代に伝えていきたいと思います。

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