2016年5月27日金曜日

【温故知新】日本橋三越本店(東京都中央区)、重文指定&大規模改装

 20日に文化審議会が国の重要文化財への指定を答申した「三越日本橋本店」(東京都中央区)。

 100年を超える歴史を持つ西洋古典様式の重厚な建物は「百貨店建築」の嚆矢(こうし)として、その後に各地で建設された百貨店のモデルとされた。

 23日には三越伊勢丹ホールディングス(HD)がこの日本橋本店を30年以上ぶり全面改装すると発表。建築家の隈研吾氏が環境デザインを担当し、重要文化財指定の建物を現代にマッチさせるリモデル(再開発)プロジェクトが動き始める。

 三越日本橋本店は、三井財閥の基礎を築いた三井高利が1673(延宝元)年に江戸本町1丁目に創業した呉服店「越後屋」が起源とされる。日露戦争中の1904年には「三越呉服店」として株式会社化するとともに、「デパートメントストア宣言」を表明し、日本初の百貨店として産声を上げた。以来、流行の発信拠点として人々から愛されている。

天女(まごころ)像が来客を迎える中央ホール
 重文指定を受ける本館は、鉄骨とれんが造りの5階建ての建物として1914年に竣工したが、関東大震災で被災し、焼け残った躯体の鉄骨や床スラブを生かしながら修築され、1927年にSRC造7階建ての建物として生まれ変わった。その後、幾度も増改築が繰り返され、設計は新築時から一貫して横河工務所(現横河建築設計事務所)が担当してきた。

 文化審は、三越日本橋本店について「さまざまな集客のための仕組みを取り入れながら増改築が重ねられており、わが国における百貨店建築の発展を象徴するものとして価値が高い」とコメント。今回指定する建造物の中でも「特筆すべきもの」として最も高く評価している。

 本館の外観は、全体的に西洋古典様式で統一されているものの、アーチを使わない水平や垂直線を強調した構成や、1920~30年代に欧州を中心に流行したアール・デコ風の装飾など新しい様式も取り入れている。

 一方、建物の内部は、5層吹き抜けの「中央ホール」、日本初のファッションショーが開催された「三越劇場」、「お子様洋食」(お子様ランチ)が初めて提供された「特別食堂」などが本館を象徴する施設とされる。

 中央ホール(1935年完成)は、柱や梁(はり)、手すり回りを大理石張りとし、重厚感を演出。大理石の中にはアンモナイトなどの化石も含まれ、学術的にも貴重とされる。ホールには名匠・佐藤玄々氏が手掛けた「天女(まごころ)像」がそびえ立ち、日本橋本店の象徴として来客を迎えている。

 三越劇場(1927年完成)は本館6~7階を貫通する形で配置。壁面と天井を大理石、木彫り、石こう整形やステンドグラスなどで仕上げたほか、グレーを基調にさまざまな文様や幾何学模様で装飾し、厳かで濃密な空間を構成。特別食堂(1935年完成)はフランスの室内装飾家ルネ・プルーによるアール・デコの意匠で飾られ、緑色大理石の丸柱や壁面のグリルなど当時のデザインの潮流を今に残している。

リニューアル完了後の本館1階イメージ
 三越伊勢丹HDは、こうした建物の歴史的価値を取り込みながら、文化に浸って楽しむ「カルチャーリゾート百貨店」という新たな百貨店空間の創出を目指し、本館・新館の大規模改修に乗りだす計画だ。
 「お客さまが過ごす『場』としての売り場の環境が大切」(三越伊勢丹HD担当者)との考えから、改修に向けた環境デザインを隈氏に依頼。人が集まる「樹」と人が流れる「道」の二つをコンセプトに掲げ、交流と遊び心を体現するという。このほか、フロアごとに「白く輝く森」(本館1階)など森をイメージしたデザインテーマを設定する。

 16年度下期に着工し、18年春の開業を目指す。投資額は約120億円。今回の改修箇所以外にも手を入れる考えで、2020年までにリニューアル工事を順次実施していく方針だ。100年以上刻みつづけてきた古き良き歴史と、未来を見据えたリニューアルを掛け合わせて、三越日本橋本店が新たな文化の発信拠点として生まれ変わろうとしている。

 《建物概要》

 所在地=中央区日本橋室町1の4の1
 本館=地下3階地上7階建て
 新館=地下4階地上13階建て
 店舗面積=6万2580m2

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