2016年6月14日火曜日

【まちづくりに新しい潮流】「クラウドファンディング」利用が拡大、国交省が制度化検討

 インターネットを介して不特定多数の人たちから事業資金を募る「クラウドファンディング」を活用したまちづくりが注目されている。火事で焼失した旅館の再建、古民家の改修、東日本大震災の被災地でのカフェの開設など、取り組み事例は全国に広がり、市場規模も右肩上がりで伸びている。国土交通省は、空き家・空き店舗といった小規模不動産の再生も視野に入れた制度の検討に着手。「志ある資金」を地域づくりに生かすことで、経済再生に役立てていく考えだ。

 ◇志ある資金をまちづくりに◇

 市場調査会社の矢野経済研究所による「国内クラウドファンディング市場に関する調査結果」によると、国内のクラウドファンディングの市場規模は、新規プロジェクト支援額ベースで12年度に69億23百万円だったのが、13年度には123億62百万円に拡大。さらに14年度は、前年度の約1・6倍に当たる197億12百万円にまで膨らんだ。

 クラウドファンディングには、投資に対するリターンを求めない「寄付型」(14年度は1億円)、事業で開発・製造した商品やサービスが提供される「購入型」(20億円)、事業から得られる金銭を配当する「投資型」(19億円)、調達した資金を貸し付けて返済時の元本と利子を配当する「融資型(貸し付け型)」(156億円)の4類型がある。

 クラウドファンディングでは、インターネットの交流サイト(SNS=ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などを使って情報を発信する。これによって、事業資金を出した人はプロジェクトの運営者や事業の進ちょく状況を把握できるのが特色だ。「顔の見える」プロジェクト運営で、利用よりも事業そのものを応援したい志のある資金を活用することを可能にする。

 国交省は、今後の制度設計を行う一環で全国から13件の事例を集めた。このうち9件が投資型、1件が融資型、3件が購入型に分類される=表参照。

 岩手県二戸市の温泉旅館は2009年に建物が火災で全焼。その再建にクラウドファンディングで調達した資金を活用した。幸運を招く「座敷わらし」に会える旅館として知られ、再建資金として4407万円が集まった。資金はエアコン、衛生器具、機械・熱源設備、照明器具の整備などに充てられ、支援者に対しては、火災後に残った木材のかけらを入れたお守り、と宿泊券(6000円相当)を提供した。

 奈良県明日香村の古民家をゲストハウスにリノベーションした事例では、集まった約1000万円の資金を建物の改修や内装・設備の更新、運転資金などに充当。外国人などの宿泊者に地域資源を活用した多彩なプログラムを提供しているほか、地域の特産品販売などの事業につなげている。支援者には、特典として無料宿泊券と特産品セットが提供されるほか、村内イベントや体験プログラムの優先案内を行う。

 東日本大震災の津波で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市では、仮設住宅で暮らす人たちが一息つける「りくカフェ」をオープン。2回にわたって集めた資金を仮設から本設への建て替えやテーブル、いす、座卓など家具・備品の購入などに役立てた。支援者には、地元産のりんごでつくられた商品が提供された。同じ被災地の宮城県気仙沼市では、震災で子どもの遊び場が減少したことから、「子どもがのびのび遊べる場」「育児の悩みを気軽に相談できるコミュニティーの場」づくりを目指し、子育て世代が集まるカフェ併設の公園を整備。231万9000円の調達資金を整地、芝生張り、遊具設置、駐車場整備に使用した。

 山口県周南市では、JR徳山駅から徒歩30秒という好立地にある空きビルをリノベーション。不足する市民交流拠点や小規模商業複合施設として整備し、中心市街地の活性化の核とする事業を展開した。

 札幌市では、高級住宅街の中にサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を開発。集めた資金約1億6500万円を利用して施設開発用地を購入した。

 ◇空き家・空き店舗の再生に照準、国交省が制度化検討◇

 政府が先に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略2016」や「経済財政運営と改革の基本方針2016(骨太の方針)」では、不動産投資信託(リート)などの資産総額を2020年ごろに約30兆円とすることを目標に設定。その一環として、クラウドファンディングを通じた小口資金を活用するなどして空き家・空き店舗の再生に取り組むことを打ち出している。

 ただ、現行の不動産特定共同事業法では、投資家から集めた資金で改修した不動産を賃貸借や売買する場合の許可要件(資本金1億円)がネックとなり、事業形態が限定されるのが課題。そこで国交省は有識者を交えて同法改正を視野に入れた検討に着手した。地域の小規模事業者が小口資金を集めて事業に取り組みやすくなるよう参入規制を緩和する法改正案を来年の通常国会に提出する方向で準備を進めていく方針だ。

 《クラウドファンディングの4類型》

 【投資型】支援者(投資家)が仲介業者を介して資金調達者と匿名組合出資契約等を締結して資金を提供し、分配金の配当等を行う。主な対象は事業立ち上げ時の設備投資等

 【融資型(貸し付け型)】支援者(投資家)から資金を募って組成したファンドから事業者に対して貸付を行い、元本と利息を配当として償還する。出資者は特定の事業者に対する出資は行わない。主な対象は事業立ち上げ時の設備投資等

 【購入型】支援者(購入者)から前払いで集めた代金を元手に製品を開発し、支援者に完成した商品やサービスの提供等を行う。主な対象はマーケティング、商品開発等

 【寄付型】ウェブサイトで寄付を募る。支援者(寄付者)向けにニュースレターや簡易な品の送付等を行うが、対価はない。主な対象はボランティア、災害復興、海外の難民救済等

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