2016年8月23日火曜日

【語り継ぐ土木の心】九州電力代表取締役副社長・佐々木有三氏

 ◇異分野含め多様な議論積極的に◇

 --土木は何のために存在する。

 「土木は有史以来、人々の安全を守り、生活を豊かにする社会資本を整備し、維持・管理するために貢献してきた。電力の分野でも、経済社会やエネルギー事情の変化など時代の要請に応じた電源開発の担い手として腕を振るい、そのアイデンティティーを確立してきた。土木の役割は、いつの時代も『社会からの要請』に応え、『つくること』と『機能させ続けること』といえる。『つくる』のは『もの』だけではない。新たな『仕組み』をつくる、新たな『事業』をつくるのも土木の仕事といえる。そのために『人』をつくることも重要だ」

 --土木は常に自然を相手にしてきた。

 「5年前の東日本大震災では、自然と向き合う際には謙虚さが大事なことをあらためて学ばされた。想定を超える大災害になったことについて、『想定外は言い訳だ』と土木に対して批判が向けられた。しかし、震災直後に現場にいち早く駆けつけ、人命救助や応急復旧に献身的役割を果たしたのも土木だった。『自然に対する畏敬の念』を忘れず、『国土と人命を守る誇り』と『日本の将来を支えるという気概』を持ち、『自立』の精神で新しい時代を切り開いていくことが土木の原点であるべきだ」

 --これから土木技術者には何が求められる。

 「自然現象や施工品質といった不確かなものと向き合う際には、『分かっていること』と『分からないこと』をきちんと分け、『分からないこと』については、必要な情報を蓄積し、問題解決のための技術開発や研究に先導的に取り組んでいかなければならない」

 --土木への社会の理解や信頼も必要では。

 「土木技術者は、有事や困難に対して逃げず、避けたり捨てたりもしないという真摯(しんし)な姿を社会に積極的に示すことが重要だ。そのためにも、土木技術者一人一人が、周囲に目を向け、足を運び、そこから得られる新たな教訓やさまざまな情報を日頃の業務に落とし込み、自分は仕事を通じて社会とどう関わっているかをしっかり考えていく必要がある」

 「何事も前向きに受け止め、自らの思いを社会にしっかりと伝えられるよう説明力も磨かなければならない。そのためにも専門力を深めると同時に、社会の動きを察知できる広い視野をバランスよく身に付けることが重要だ。土木の仕事は、『定型』タイプでなく『変動タイプ』といえるだろう。変動タイプの仕事はあらゆることを想定し、その都度工夫を重ねて対処しなければ責任を全うできない」

 --次代の土木を担う若者への期待は。

 「まずは目の前の仕事を確実にやり遂げた上で、『なぜ』を繰り返し、真実を知ろうとする不断の努力を続けてほしい。そして、真実を知るためには、現場に足を運び、現物を見て、当事者と話すという現地、現物、現人の『三現主義』に徹することが不可欠だ」

 「特に大事なのが、異分野も含めた多様な議論・コミュニケーションを積極的に行い、複数の目で横断的に仕事を進めることだ。直面する壁に立ち向かった経験を一つ一つ積み重ねることで、自立する力、判断できる力が身に付き、確信を持って情報を発信できるようになる。決してうろたえたり、振り回されたりしないことが肝要だ。土木技術者の活躍の場は大きく広がっている。小さくまとまるのではなく、物事を大きく捉える姿勢を養ってもらいたい」。

 (技術本部長、ささき・ゆうぞう)

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