2016年9月20日火曜日

【地域の課題解決に貢献可能】Jリーグ・村井満チェアマンに聞く「スタジアム改革の現状は」

 これまでの発想から脱却し、スタジアムやアリーナを多機能・複合化施設として整備する。スポーツをめぐる新たなプロジェクトの胎動が全国各地で顕在化しつつある。プロスポーツの一つ、サッカー・Jリーグは数年前から「スタジアム改革」の必要性を訴え、行政や産業界にアプローチし続けてきた。地域活性化や産業振興など山積する社会的課題の解決策として、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)の村井満理事長(チェアマン)は「スタジアム整備はいくつかの答えを示すことができるはずだ」と断言する。

 --スタジアムをめぐる現状をどう見る。

 「Jクラブの中で自らスタジアムを所有しているのは柏と磐田の二つだけで、あとは公共施設を利用している。現時点で、スタジアムは行政による所有が前提になっており、利用日程や使用料といった条件は行政との話し合いの中で決まっていく」

 「最近、国を中心にスタジアムの産業化や『稼げる施設』への転換を図ろうとの機運が高まり、社会の関心も高まってきた。非常にうれしい動きではあるが、一クラブが数万人規模のスタジアムを自ら保有し運営することは、今の経営規模や税制では難しい。理想のスタジアムを実現する取り組みは、保有する・しないという観点ではなく、行政が抱える社会的な課題をどう解決するのか、行政にメリットがある形で提案することが現実的だと思っている」

 --スタジアム改革を進めるポイントは。

 「例えばJ1の場合、1度の試合で平均1・7万~1・8万人の観客が集まる。試合を開催するには、スタジアムだけでなく、来場者が使う公共交通や道路などのインフラ、警備などで行政の支援がどうしても必要になる。この意味で各クラブは行政機関とウイン・ウインの関係を築くことが不可欠になる」

 「少子高齢化などを背景に社会コストが上昇基調にある中、市民の健康増進や子どもたちへの道徳教育、国際交流、産業振興、地域活性化など行政が抱える問題は枚挙にいとまがない。こうした課題に対して新しい発想のスタジアムは、いくつかのソリューションを提供できるはずだ。Jリーグの理屈や都合だけでスタジアムを造るのではなく、社会のさまざまな課題を解決するため、地域とクラブが共に取り組むスタンスを大切にしたいと考えている」

 --各地でスタジアム整備の動きが具体化しつつある。

 「われわれが理想とするスタジアムは、街中立地、屋根付き、高速・高密度通信が可能な環境、充実したホスピタリティーが重要な要素だ。こうした要素を満たすスタジアムは地域の課題を解決する足掛かりになる。チェアマンに就任してから長野に新しいスタジアムができ、北九州では新幹線の駅から500メートルの場所でプロジェクトが進行している。京都や広島、長崎でも整備の動きが出始めている」

 「民間から寄付金を募って建設されたガンバ大阪のホームスタジアム『吹田スタジアム』(大阪府吹田市)の完成に興味を持つ行政関係者も多いだろう。クラブの動きが足りないと批判するのは簡単だが、それよりも各地にスタジアム整備の胎動があることに目を向け、リーグとして後押しすることが大切だと思っている」

 --スタジアム改革を後押しする方策は。

 「例えば高速・高密度通信を可能にする設備を導入するなど、リスクを負って良いスタジアムを造った場合、より多くの観客が集まり、社会的な関心も高まるなど、インセンティブが働く可能性は十分ある。今回結んだ長期の放映権契約はそうしたことを可能にするだろう。1万5000人程度の収容人数のスタジアムでは、どんなに経営努力をしても入場料収入には限界がある。ホスピタリティーゾーンが充実していなければ、来場者単価を上げることもままならない。中継用カメラが満足に設置できないこともある。自助努力で成長していこうと思ったら、スタジアムがボトルネックになる可能性は高い」

 「リーグからの配分金が多い、少ないだけではなく、自分たちの成長余地を考えた場合、スタジアムが非常に重要だということは、すべてのクラブ経営者が分かっている。問題は税制や法規制によって、私企業が数万人規模のスタジアムを所有し続けるのが難しいこと。そうした意味で各クラブと行政の向き合い方がポイントになる」

 --スタジアム整備のあるべき姿は。

 「スタジアム整備は新設ばかりでなく、改修も大きな割合を占める。例えば等々力陸上競技場(川崎市中原区)は改修で素晴らしいスタジアムに生まれ変わった。サッカーというイベントを盛り上げ、地域から関心を持ってもらう取り組みの延長線上に、スタジアムの改修や新設がある。クラブがどれだけホームタウンに貢献できているか、愛される存在になれるかが大切で、最初にスタジアムありきの議論ではない」

 「スポーツ施設は公共財であり、より多くの人たちに開放されていかなければならない。ともすると局所的な議論に陥りがちだが、スタジアム整備は本来、地域や社会にどう貢献できるかという視点で行われるべきものだ。吹田スタジアムのように、開発段階からリーグやクラブが関わっていくこともより重要になるだろう」。

 (むらい・みつる)
地域や社会にどう貢献するのか―。スタジアム整備のあり方が問われている

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