2017年3月13日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・162

地域建設業の担い手確保は少しずつ結果が現れ始めている
 ◇手探りでも種まき続ける◇

 建設業界の人材不足は東京のような大都市だけでなく、地方でも深刻化している。地場ゼネコンで働く傍ら、建設関連団体で広報を担当している河内英次さん(仮名)は、「都市部では景気が上向いていると聞くが、地方はその恩恵に浴していない。景気が悪い、人もいない。八方ふさがりだ」とこぼす。団体は担い手確保に向けた取り組みを強化しているが、目に見える形ですぐ効果が出るわけではなく、「本当にこのやり方でいいのか」と自問と手探りが続く。

 災害時、被災地で真っ先に道路啓開などの対応を担う地域建設業。その疲弊は、地域の「応災力」の低下を意味する。自身も地域住民の命や生活を守っているという自負を持ちながら仕事に励んでいるが、職人が待遇の良い大手企業の現場に流れたり、自社の社員が安定を求めて自治体の技術職に転職したりする姿を目の当たりにしてきた。「このまま人が増えなければ、本当に『災害対応空白地帯』ができてしまう」と危機感を募らせる。

 建設会社を営む父の背中を見て育った。就職の適齢期はちょうど「氷河期」と呼ばれる冬の時代に当たった。安定を求めて公務員試験を受けようと考えたこともあったが、「書類のやりとりだけで成立する仕事もあるが、建設業は名前が残らなくても心に残る仕事ができる」という父の言葉に動かされ、同じ道を歩もうと決心した。

 自身の経験を踏まえると、若者に建設業の仕事を理解し、身近な存在として捉えてもらうことが、入職者の増加につながるのではないかと考える。「大手ばかりが会社じゃない。地域の企業に少しでも興味を持ち、就職先の選択肢の一つに位置付けてもらいたい」。そんな思いで学生たちに働き掛けている。

 広報活動の一環で出前講座や体験授業のため学校を訪ねる機会も増えた。ノウハウが全くなかった開始当初は適切な実施時期すら分からず、いざ講座を開いてみたら参加者の大半は既に内定が出ている学生ばかりということも。「失敗はしたが、無駄とは思わない。その積み重ねが今につながっているはずだ」。

 現在は建設系の学科がある高校や専門学校を対象に行っているが、学校側の要請があれば普通学校でも講師を派遣したいと考えている。入職前に建設業に関する知識や素養があるに越したことはないが、今の業界にそんなことを言っている余裕はない。「広く種をまけば、どこかで芽が出るかもしれない」。その可能性に賭けている。

 最近、出前講座や体験授業を受けたのをきっかけに団体の会員企業に入社する若者が出てきた。そういう若手が経験を積んで体験授業の講師として母校に派遣されることも。後輩たちに建設業の魅力ややりがいを実感のこもった言葉で伝えるその横顔に、「これまでの取り組みは間違っていなかった」と自信を持つことができた。手探りでも、まき続けた種は確実に芽吹き始めている。

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