2017年3月29日水曜日

【ターゲットは2030年代半ば】火星基地建設、NASAと設計事務所らコラボ

火星基地の完成イメージ
(提供:NASA/Clouds AO/SE Arch)
◇建築家・曽野正之氏、曽野祐子氏らがアイデア◇

 人類は火星に住めるのか-。SF映画に描かれた出来事を現実にするかもしれない火星基地の開発が、米航空宇宙局(NASA)と建築家などのチームにより進められている。地球からの資材の輸送、過酷な環境下での施工、長期滞在するクルーの健康への影響といったさまざまな課題を解決する鍵となったのが、材料に氷を使うこと。米国で活動する建築家・曽野正之氏・曽野祐子氏らがそのブレークスルーの生みの親だ。米国が火星有人探査のターゲットとする2030年代半ばに向け、着実に歩みを進めている。

 NASAのラングレー研究所がこのほど、新たな火星基地のコンセプト「Mars Ice Home(火星の氷の家)」を発表した。元になったのが、15年にNASA主催の火星基地の設計コンペで優勝した曽野氏らのアイデアだ。火星に存在する素材を使い、3次元(3D)プリンターで建設するシェルターの設計競技で、外壁を氷で覆う案を提示し、最優秀に選ばれた。

火星基地の完成イメージ
(提供:NASA/Clouds AO/SE Arch)
火星に豊富に存在するとされる水を素材に使うという斬新な発想がNASAのエンジニアの目に留まり、コンペの優勝チームであるニューヨークの設計事務所、Clouds AOとSEArchとのコラボレーションが始まった。

 氷を利用する最大のメリットは、人体に有害な銀河宇宙線を遮へいする効果があることだ。これまでは、放射線を防ぐために地下基地が想定されることが多かった。しかし掘削に必要な大型のロボット重機を地球から輸送することは現実的ではない。氷の選択で地上生活が可能になったことで、自然光が氷を透過して室内に届き、クルーにとってより健康的な環境を整えられるという効果も生まれている。

 オリジナルのアイデアから二つの利点を引き継ぎながら、今回のプロジェクトでは施工性や汎用性を追求。正之氏は「より総合的なエンジニアリングと汎用性、拡張性を視野に入れたデザイン」と表現する。直径13・5メートル、高さ10・9メートルの多層ドーム構造は、「ベータクロス」と呼ばれるテフロン加工されたガラスファイバーを外装材に使用。折り畳んだ状態で輸送し、火星到着後に二酸化炭素(CO2)を主体とする大気で膨らませる。最も外側の層に地中から取り出した水を注入すると、外気に冷やされて自然に氷のシェルが形成される。

 コンペの条件だった3Dプリンティング技術は、今回はひとまず使われない。宇宙線の照射量が最大になる天頂部分は氷を最も厚くする一方で、垂直の壁側は薄くして自然光の入射と眺望を確保した。

 ◇氷使い火星に基地建設◇

 氷に守られたドーナツ型の居住スペースは与圧され、氷チェンバーとの間にあるCO2を充てんした断熱層が適温を維持する。氷チェンバーを二重膜構造とし、気温が0度を超える場所で使えることもコンペ案から改善した点だ。生命維持システムなど外部設備とも接続し、拡張性を持たせた。

火星基地の断面パース
(提供:NASA/Clouds AO/SE Arch)
最大のチャレンジは、大量の水を地中からいかに効率的に採取するかだった。計算では、1日1立方メートルの速度で採取し、氷チェンバーを満たすのにかかる日数は400日。研究が進み、採取のスピードを上げることができれば、より大型のシェルターを建設することも可能だという。

 一連の工程はすべて無人で、クルーが火星に到着するまでに行われる。NASAの研究者は「数カ月も宇宙を旅して火星に着いた時、新しい家が出迎えてくれるなら、その日は素晴らしい一日になるだろう」と話す。

火星基地の断面図
(提供:NASA/Clouds AO/SE Arch)
正之氏は「NASAは現在、複数の火星基地コンセプトを進めているもようで、氷の家はその中の一つという位置付け。審査を経て素材実験の予算が決定し、年内には膜構造素材のサンプル作成という次の段階に進む予定だ」と明かし、自分たちのアイデアが発展していることに大きな意義を感じている。

 NASA主導の3Dプリンターを使った火星基地建設を目指す一連のプロジェクトは、15年の設計コンペに続き、現在は材料にフォーカスした新たなコンペが始まっている。8月には結果が発表される予定だ。次に行われる模型製作を含む施工コンペが最終段階となる。

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