2017年6月12日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・170

2人でつくる海の家にファンもできた
 ◇日々実験のようなことを◇

 夫婦で活動している建築家ユニットは珍しくない。阿部健太郎さん・仁美さん(いずれも仮名)夫婦もそんなひと組。大学の同級生で、同じ研究室に所属し、卒業設計やデザインコンペに共に挑み、賞も取ってきた。

 大学の設計の授業は与えられた敷地の中で設計し、プランを立てて模型を作るのが一般的。「そんな作業だけでは満足できなくなり、もっと実物に近い環境を求めて施工会社に就職しました」。そう話す健太郎さんは5年間、さまざまな現場に携わった。

 中でもリノベーションは、古い建物自体が持つポテンシャルを読み取り、生かしていくことが強く求められた。「自分から出てこないデザインをどう生かすか。それは住み手の意見を聞き、取り入れてつくること。自分だけで考えるデザインを超えられると感じた」。この過程や思考が独立に大きな影響を与えた。

 仁美さんは卒業後、組織設計事務所に就職。担当プロジェクトの完成を待ち、健太郎さんの独立から3年後に合流。「彼は設計をして施工もする。私は企画を立てて設計する。互いが共通点を持ちながら、それぞれ得意分野を生かすことで仕事に幅が生まれました」。

 その成果が、夫婦で始めた海の家。普段は、建築の設計・施工をなりわいとしている夫婦が自ら事業を立ち上げ、飲食の運営にも取り組む。もちろん海の家の設計は夫婦の本業。仲間たちと一緒に建てる。こちらも本業だ。「自分たちで事業展開できると自分で仕事をつくることができる。日々、実験のようなことをして過ごしている感じです」と健太郎さん。

 7月中旬の営業開始に向けて新たな企画を立案中。仁美さんは「この場で結婚式を挙げる。2人の思いを海の家のデザインに反映させたい」と話す。さらに「もし2人が家をつくる時、式場(海の家)の材料を転用すればストーリーをつなぐことができるし、親から子へと引き継がれ大切にされていくのでは」と笑みがこぼれる。

 健太郎さんは建築家の作家性にまったく興味がないという。「極論を言うと(住宅は)住む人が良いと思うことが良いことなんだと思う。そんな普遍性に関わることを大事にしたい」。

 施主には良い空間について考えてもらい、家づくりに積極的に参加してもらう。「主体性を持ったお客さんの目標を手助けするのが私たちの仕事。だから『ボード運んで』『へこたれたら完成しませんよ』などと声を掛ける。ある意味、究極の家づくりです」。

 施主とのやり取りや現場の流れをSNS(インターネット交流サイト)ですべて公開している。「お客さんが喜んで家をつくっている風景を見た方が『楽しそうだね』とやってくる。皆さん既に勉強して来るので、私たちのやり方に戸惑いはないようです」と仁美さん。

 健太郎さんも「『ファン』をどれだけつくるのかが大切。お客さんはつくることに参加した家を愛しますし、周りの人にも自慢できる。数年たってもその人らしさが残る。そんな家づくりを続けていきたい」。

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