2017年6月19日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・171

行政に携わる一人として、説明責任の重要性は強く理解している
 ◇批判を受け入れ職務に全力◇

 地方自治体で首長が交代すれば、新たなトップの政治理念に基づき、それまでの政策が修正・転換されるのはよくあること。それが首長選を行う意義でもある。東京都が建設工事で試行を開始する入札契約制度改革も、昨年8月の小池百合子知事の就任以降、新たに検討が進められてきた取り組みの一つだ。

 「課題があることは認識している。試行が軌道に乗るよう、全力を尽くす」。都の公共調達業務を担当している荒川潤一さん(仮名)はそう話す。

 ここ数カ月は、具体的な仕組みの検討などで残業も続いた。建設業界では官民を挙げ、週休2日の確保など現場の働き方改革に向けた動きも活発だが、「こちらにはそうも言ってられない忙しさがあった」と冗談交じりに振り返る。

 半年以上をかけた検討の末、小池知事は、入札の公平性・競争性を高めることなどを目的とした新たな発注方式(予定価格の事前公表取りやめ、JV結成義務の撤廃など)を今月下旬から試行することを決めた。

 都の入札制度改革の動向は、建設専門紙以外の一部メディアでも報道されているが、入札制度の仕組みは、一般の都民にはなじみの薄い話題だ。今月23日告示・7月2日投開票の都議選をめぐっても、入札制度改革に対する世間の関心が、築地中央卸売市場の豊洲新市場への移転問題のように高いとはいえない。

 しかし、「建設業者にとって、発注者の入札制度は会社の経営、従業員の生活にも影響しかねない重大な関心事」。制度改革の検討を通じ、その職責の重さを改めて感じている。

 これまで都は、国の運用と異なり、入札制度でやや独自の路線を歩んできた。例えば、不正防止の観点から、予定価格の事前公表に関しては、最後の1団体になっても堅持していくとの立場だった。しかも業界側には、都側との意見交換を重ねることで信頼関係を構築し、現行制度への理解を深めてきたとの認識もあったため、今回の入札制度改革は、「寝耳に水」の衝撃を持って受け止められてしまう。

 「批判は覚悟している」。しかし、批判を受けるたび、「試行してみなければ見えない面もある。まずは試行させてもらいたい」と公務員としてのプライドも同時に湧き上がってきている。

 事業者側からは安値競争に陥る可能性を指摘する意見も出ており、今はそうした不安を払しょくするための制度説明などに奔走中だ。説明会開催の知らせを出せば、定員がすぐに埋まるほど事業者の関心は高い。情報周知を徹底するため、都庁で説明会を開くだけでなく、要望があれば業界団体へ直接出向くこともある。

 現行制度の急激な変更は、時として庁内外に摩擦を生み、行政運営の停滞につながる恐れもある。そうした事態に陥らないよう、「知事が決めた方針の実現がわれわれの役割」と試行開始へラストスパートをかけている。

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