2017年7月25日火曜日

【ERI学生デザインコンペ審査員インタビュー・3】千葉学氏(建築家、東京大学教授)に聞く「コンペの特徴と応募作品への期待」


ERIホールディングスが主催する設計競技「ERI学生デザインコンペ」。「RULE(ルール)/SPACE(スペース)/HARMONIZE(ハーモナイズ)」をテーマに競う2017年度コンペの選考委員に聞くリレーインタビューも3回目。今回は建築家で東京大学教授の千葉学氏に聞いたコンペの特徴や学生へのメッセージをお届けします。

――ERI学生デザインコンペの特徴は。

「テーマに『ルール』という言葉が入っている点が大きな特徴です。2006年にギャラリー間で展覧会をしたときに、『rule of the site そこにしかない形式』という書籍を出版しました。建築の中に存在する原理やまちを形作る法律、規範、そういった『ルール』や『形式』をどう解釈し直し、新しい価値創造につなげていくかが重要だと考えていました」

「そのときに考えていたことと通じるものがあります。いかに建築の中に新しい秩序や原理を見つけていくか、多くの建築家が考えていることだと思います。ルールは単に何かを縛るものではなく、新しい建築が生まれるときの一つの重要な概念になると昨年のコンペで改めて感じました」

――昨年の審査の感想を。

「ルールというテーマに対し突っ込んだ提案があったかというと、多少物足りない印象を持ちました。ルールに建築デザインがどうドライブしていくかというダイナミックな関係性を考えていた案は少なかったように思います。実務に携わっている僕にとっても難しい概念ですし、学生には容易ではないテーマだと思いますが、コンペの回数を重ねる中で応募者と主催者の対話が継続し、メッセージが伝わっていけばよいとも考えています

――印象に残った作品はありましたか。

「最優秀賞に選ばれた法政大大学院の道ノ本さん、前波さんの作品『蔀戸の在る街の暮らし』は、コミュニティーを作るツールとして、古くから日本の建築に使われている建具に着目した点がおもしろかったです。建築の中で唯一動く部位であり、生活の様々な場を作ってきた重要なツールでしたが、時代の流れの中で多くが失われてしまいました。場と場、人と人との関係をつかさどる大事なツールが鉄の扉に置き換わってしまったのは、日本の建築の系譜にとって貧しいプロセスだと思います。建具をノスタルジックに復活させるのではなく、今の日本にふさわしい新しい関係性をつくるために使ったという点で非常に野心的でした」

「佳作の『共界線の街』(立命館大大学院・廣田さん、藤関さん)は、建築にとって不自由な線引きとも言える敷地境界のあり方を問う作品でした。あらゆる建築の前提条件になっている敷地境界の存在自体を見直すと、街がこんなにも変わっていくんだと示してくれた提案で、僕たちが日常当たり前だと受け入れている法的、社会的制度を根本から考え直した点が新鮮でした」

――今年のテーマの一つは「ハーモナイズ」。応募作品への期待は。

「何と何が、どのように調和しているのか、創造的に考えていく必要があります。東京という街は秩序がない、調和がないと思われていますが、実は調和の概念が潜在していて、それに気付いていないだけかもしれないと思っています。今年のテーマは、建物同士の新たな調和のあり方や人と人、人と建物の関係性を再発見することにもつながるのではないでしょうか。現代の建築・都市を考える上で興味深いテーマだと思います」

――学生の指導で心がけている点は。

「建築は世界共通の言語であり、年が離れていても、先生と生徒という間柄でも、国籍が違っていても、建築を語る上では通じ合うことができます。だから学生ともいつも同じ土俵で戦っているという感覚を持っています。びっくりするような新しい提案をしてくる若い人が出てくると、素直にすごいなと興奮します。そういう案は見ていて清々しく、またそういう人との出会いにも、救われたような気持ちになります。建築の将来に向けても期待が高まります」

「建築は100人いれば100通りの答えがある。だからこうしなさい、ああしなさいといった建築教育はやってはいけないことだと思っています。いろんな価値観が共存していることが社会そのもの。僕の考えは必ず伝えますが、感覚的に好きだ嫌いだとは言わず、どうしてこういう建築になったのかを丁寧に説明することを心がけています。それに賛同するかどうかは学生が決めることです」

――学生にはどういう建築家になってほしいと思いますか

「建築の仕事はとてもアーティスティックであるとと同時に、アートではないと思う部分もあります。建築をつくるとき、僕たちは過去から様々な影響を受けながら、継承するところは継承し、変えるところは変えていく、その判断を常にしています。また、豊かな建具が失われたことと人と人の関係性が漂白されていったこととは鶏と卵のような関係で、どちらが先かわからない面もあります。建築は新しい創造でありながら、人間を規定し、また変えていくものでもあるのです」

「だからこそ、歴史的文脈をどう解釈して新しい未来にどうつなげていくかという視点が大事だと思っています。自己表現として建築をつくるのではなく、時間軸や社会とつながっていく回路を持っている人を僕は建築家と呼びたい。日本に近代建築が導入されて以来、戦災復興、高度経済成長と、日本は常に新しいものをつくることばかり考えてきましたが、これからの建築家は歴史や地域、社会を読み解く力を身に着けなければいけないと思います」。

ERI学生デザインコンペ2017

【主  催】 ERIホールディングス
【協  賛】 日本ERI、ERIソリューション、ERIアカデミー、
       東京建築検査機構、イーピーエーシステム

【特別協賛】 日刊建設工業新聞社

【応募受付】 2017年9月1~20日

【一次選考】 2017年10月上旬

【最終選考】 2017年11月11日(公開審査)

【賞  金】 最優秀作品賞(1点)50万円、優秀作品賞(1点)25万円
       佳作(数点)5万円、特別賞

0 コメント :

コメントを投稿