2017年9月14日木曜日

【選者・降籏達生氏が視点語る】本紙掲載「建設業の心温まる物語」、9月で50話に

 ◇谷からはい上がるエピソードに感動◇

 日刊建設工業新聞で16年6月から毎月1回、2~3話ずつ掲載している「建設業で本当にあった心温まる物語」。今月25日の掲載分で50話に達する。

 建設業界で働く「市井の人々」がつづった感謝、感動、失敗談。選者であるハタコンサルタント(名古屋市)の降籏達生代表取締役は、どんな視点で掲載する物語を選んでいるのか。そして物語がそれぞれの人たちにどんな効果をもたらしているのかを聞いた。

 □重要なのは具体的なエピソードが書かれていること□

 物語を選ぶ視点はたった一つ。「谷からはい上がってくるような経験」がつづられていることだ。谷が深ければ深いほど、はい上がってきた時のうれしさも大きい。読む人もそこに感動する。建設業をPRする場合、とかく良いことばかりを書く。しかし、「3K」と言われるように、現場の仕事はきつく、汚く、危険と隣り合わせであることは否定できない。きれい事ばかりでは、眉唾物と思われかねない。

 「24時間テレビ」のマラソンがそうであるように、暑く大変な状況の中でも頑張る姿に視聴者は引き付けられ、感動する。建設工事も厳しい状況の中で、谷からはい上がるように努力して乗り越えていく過程を見ることで、読者の気持ちが動いていくと考えている。

 重要なのは、具体的なエピソードが書かれていることだ。工事現場の近隣の人たちから「ご苦労さま」「いつも見ています」と声を掛けられるなど、具体的な風景が目に浮かぶこともポイントとなる。

 8月28日の掲載分までに47話の物語が顔写真とともに掲載された。物語を書いたそれぞれの人に聞くと、同じ地域で働く同業者や協力会社の人たちから反響があり、新聞を見て連絡が来ることもあるそうだ。そして何といっても家族が喜んでくれるのだという。

 講師を務める全国土木施工管理技士会連合会の研修を受講してくれた人たちに、物語を書いて提出してもらう活動を6~7年続けている。

 最初は手間を掛けて申し訳ない気持ちだった。それが今では、物語を書く人にとってもさまざまな効果があると考えるようになった。書くことによってほんのささいなことにも感動する力が付く。家族の力が大切であると再認識する。そして人を好きになるという力を養えるということだ。

 □ささいなきっかけで感動が生まれる□

 建設業は労働集約型の産業。いがみ合って仕事がうまくいくことはあり得ない。物語を書くことで、「自分は人のことが好きなんだ」と改めて実感することが、現場を運営する上でも大きな効果をもたらす。

 これまで集めた物語を収録した冊子を自ら複数作って販売したり、日刊建設工業新聞の紙面に掲載したりしてきた。こうした活動を継続していきたいし、今後は、会社単位で物語を集めてみるのはどうかと思っている。「◯◯建設で本当にあった心温まる物語」といった形だ。

 各社が冊子にして会社案内として使うのもいいし、ホームページに掲載する工事実績に物語を添えるようなアイデアもある。美辞麗句を並べるより、建設業を身近に感じてもらえるようになるのではないか。ぜひ各社に挑戦してもらいたい。

 これまで5000話ほどの物語を読んできた。アシスタントの女性と2人で選定作業をしているが、彼女は最初、「建設業はこんなことでも感動するんですか?」と驚いていた。

 実際に現場では、ほんのささいな言葉をきっかけに大きな感動が生まれることがある。コンサルタントとして建設業界を応援する立場だが、数々の物語から自分の活動が触発されることも少なくない。上司や経営者が社員に投げ掛ける言葉によって、人材の定着率が高まることもある。ちょっとした言葉を掛けてもらうだけで本当にうれしくなることがあるのだ。

 □建設業に技能リーグ創設を□

今年3月。「ドリプラ世界大会10周年アニバーサリィ本選大会」に出場した。「誰もがどんな夢でも描き、挑戦することができる」というコンセプトで、出場者がプレゼンテーションする大会だ。

 そこで「Gリーグ(技能リーグ設立プロジェクト)」構想を提唱した。「居場所を作って子どもたちを守り、建設ものづくりで国土を守る」と訴えた。

 Gリーグでは、技能習得のトレーニングセンター(Gトレセン)を各地に作り、対抗戦で技を競い合うことを考えている。各地に技能訓練を行う施設ができつつある。各地域が互いに技能を高め合うような機運が高まればと思っている。

 技能を教える「Gコーチ」の養成も大切だ。今月28~29日に三田建設技能研修センター(兵庫県三田市)で行われる「建設技能講師養成セミナー」で講師を務める。技能を教える講師の人たちに、どうすれば伝わりやすい研修ができるかを学んでもらう。そうした活動を通じて構想を実現していきたい。

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