2017年12月25日月曜日

【建設業の心温まる物語】アイトム建設(三重県)・井田貴宏さん

 ◇モグラのおっさん◇

 私が新入社員のころの話です。ある現場が始まって1カ月経過したころ、ある施工班を任されるようになりました。

 私が任されていた班は側溝などの建造物を施工します。私は、作業員から「早く丁張を掛けろ」と言われ、いつも測量に追われていました。とにかく測量をして丁張を掛けないと仕事が進まないので、私の掛ける丁張がなければ何もできない人たちだと内心思っていました。

 その中に背が低く、体格の良い作業員がいました。その作業員はいつもスコップをもって汗まみれになって仕事をしていたので「モグラのおっさん」とあだ名をつけていました。

 いつものように、側溝の床掘りをしているとモグラのおっさんが「この道路はどこかで勾配が変わるのか」と聞いてきました。私は「この勾配通りです」と答えると「この勾配通りに行ったら、本当に既設の道路に取りつくのか」と言われました。私は「大丈夫です」と答えました。

 するとモグラのおっさんは自分で測量を始め、「5センチ間違えている」と言うのです。そんなはずはないと思いながら見直すと、確かに5センチ間違えていました。ほかの作業員から「何やってるんだ」の声。私はとても恥ずかしく、スコップを持って少しでも手伝おうとしました。

 その時、モグラのおっさんに「お前はお前の仕事をすればいい。これは俺たちの仕事だから」と言われました。作業員の方々はスコップを持って自分の仕事をきちんとしているのに、私は測量という自分の仕事さえもできていないことに気付かされ、人を見かけで判断していた自分をとても恥ずかしく思いました。

 そう思うとじっとしていられません。みんなからは邪魔だと言われましたが、私もモグラになってその側溝を直していました。

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