2018年4月16日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・197

夜間照明に照らされた工事現場。あの時のつらさが自分の原点
 ◇喜ばれなければ意味がない◇

 「仕事はかなり増えたが、その分、やりがいも大きくなった」。入社7年目に入った野本卓也さん(仮名)は今、現場代理人として奔走中だ。現場管理はもちろんのこと、発注者との協議から、関係行政機関との打ち合わせ、近隣住民へのあいさつ回りまで目を配る範囲が格段に広がった。「責任感が全然違う。ますます仕事が好きになった。自分にとって天職だと思っている」と笑顔で話す。

 入社当初から、このように思っていたわけではない。最初に配属されたのは、夜間工事の現場だった。「仕事は分からないし、昼夜が反転して時差ぼけみたいになるし…。仕事に付いていけず、つらかった」。当時を、こう振り返る。先輩にも職人にも何度も怒られた。だが、仕事が終わると「飲みに行こう」と誘われ、「お前、つらいだろう」とねぎらってもらい、時にはプライベートの相談に乗ってもらった。周りの助けがあって、何とか乗り越えられた。その後には、現場が完成した時の達成感が待っていた。

 しっかりとした成果を残せば、評価につながる。「発注者でも住民でも誰でもよいので、人に喜ばれる物を造りたい。喜ばれることが、一番の原動力になる」とも。そのためには、プロとして恥ずかしくない物を造らなければならない。努力や苦労が付きものだ。そこまでこだわることができるかが、大きな分かれ道のように思えてならない。

 同期入社のメンバーは、半分以上が会社を去った。自分より下の世代も似たような状況だ。下請として入った現場で、元請企業の若手社員が、ある日を境に出てこなくなったこともある。

 「与えられた図面通りに物を造って、お金をもらう。そうなのだが、それだけだったら長続きしない」。野本さんは、そう感じている。ささいなことでもいい。周りの誰かが喜んでくれる。そうした瞬間があれば、どんなにつらくても、踏ん張ることができるのではないか。

 近隣住民との会話も大事だと思っている。「何々会社の人」ではなく、名前で呼ばれるくらいに付き合えば、その人は、自分たちの仕事をしっかりと見てくれるからだ。「頑張ってるね」「ありがとう」。そんな一言で、疲れは吹き飛ぶ。

 野本さんは以前、飲食店の店長をやっていたことがある。接客業を通じて身に付いたコミュニケーション能力は、今の仕事で大きな武器になっている。「黙々と造っているだけではうまくいかない。周りと話さないと駄目だ」。後輩たちにも、積極的にこうした話をしていこうと思っている。

 将来の夢を聞くと、「会社で上に上り詰めたい」と即答された。もっと多くの人に喜んでもらえるフィールドを目指し、夢は膨らむ。

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